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執務室の新人提督
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んかヤバイならいいんだよ。私だって明石に無理に答えてほしいってモンじゃないしさぁー……」

 言葉遣いこそ普段のままだが、気遣いの色が過分に盛られた隼鷹の声に、明石は組んでいた腕を解いて小さく笑った。

「いえ、そういう訳じゃないんです。ただ、今は黙っていて欲しいと頼まれているもので」
「……へぇ。別に隠すような趣味じゃないのにねぇ」

 隼鷹自身は模型作りに興味を惹かれる事はなかったが、それでも隼鷹にとってこれは否定するような物ではない。少なくとも、部屋に遊びに行って模型が並んでいても、隼鷹はただ平然と受け入れるだけの物だ。
 
「随分と恥ずかしがり屋な奴が居るもんだねぇー」
「あ、あはははははー……」

 隼鷹の言葉にも、明石は愛想笑いで返すだけだ。これは相手に相当な弱みをつかまれているに違いない、と隼鷹は考えて、ポケットから財布を取り出して数枚の紙幣をカウンターに置いた。

「そいつが無茶言うなら、呼んでよね? 飲み会に連れて行って有耶無耶にしてやるから」
「どんな解決方法ですか……」

 しかも有耶無耶であるから実際には解決していないというおまけつきである。
 頼りになるのかならないのか、と胸中で零しつつ、明石は確りと会計を終えお釣りを隼鷹に渡した。
 ありがとうございまいました、と明石が言うより先に、再び酒保の扉が開かれた。
 入ってきたのは、この鎮守府の主提督だ。共に居ることが多い初霜の姿はない。恐らく、私的な時間なのだろう、と明石はあたりをつけて笑顔で挨拶の声をあげた。
 
「いらっしゃいませ、提督」
「おはよう、明石さん」

 互いに笑顔で一礼し、提督は次いでカウンター前に居る隼鷹にも声をかけた。
 
「おはよう隼鷹さん。この前は助かったよ。ありがとう」
「おはようさん、提督。……で、この前って何さ?」

 挨拶の次に来た提督の言葉に、隼鷹は首を傾げた。この前、と言われても彼女には思い当たる節がないのだ。さて、提督が何を話題にしているのか、と一瞬悩んだ隼鷹は、素直に問うことにしたのである。
 提督はそんな隼鷹にも特に気落ちした様子はなく、常のままの調子で返した。
 
「いやー、山城さんが胃が痛いって言ってたから、隼鷹さんお勧めの豆乳を紹介したら、ましになったって報告があってね?」
「いや……それ大分前じゃね?」
「うん、結構前です」

 具体的には、まだ提督が執務室に篭っていた頃――一ヶ月ほど前の話である。隼鷹としては、提督に言われるまで忘れていたような話だ。
 それでも、そんな話であっても確りと感謝の言葉を忘れない提督が、隼鷹にとってはこの上なく好ましいのである。
 
 隼鷹にとって、人の体を得ることでもっとも恩恵を得た事と言えば、姉達と同僚たちと酒と食事と、こ
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