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あるんですよ?」
「……?」
さて、それはなんだと、と提督は首を傾げた。前後の繋がりがない上に、突然の告白に提督としても差し出されたケフテデスを口内で噛む事しか出来ない。
「でも、きっとそれで良いのだと、皆といると思う事が出来るんです」
偶にやっぱり落ち込みますけど、と翔鶴はころころと笑った。提督はやはり、黙って差し出されたショウバーロウを口にするだけだ。
「一人では、幸せも不幸もないじゃありませんか……私もそれまで、随分悩み迷いましたが……違う誰かが居て、その人とは違う自分が居て……ちょっとの差を見つけられるんですよね?」
問うてくる彼女に、提督は差し出されたケバブを食べつつ頷いた。そう思い至るまで、彼女はきっと様々な物を見たのだろう。それはきっと、自己の中にある綺麗ではない物だったはずだ。それでも、翔鶴は、自分なりにその結果へと辿り着いたのだ。そしてケバブが少し醤油風味なのも自分なりにその結果へと辿り着いたからだろう。
「提督も新しい縁の中で、そういった事に戸惑っているのだと思います……ですから、一人で悩まないで下さい。私達は、ずっとここに、お側にいますよ」
ムサッカアを提督へと差し出して微笑む翔鶴の相は、去ろうとする提督に縋るような色があった。しかしそれは弱さではない。女性としての、情の強さだ。
そのまま、袖を切ってしまわねば振り払えないのか、と提督は中国の哀帝の故事を思い出しながら笑みを零した。
もっとも、あれは男色の話であるし、寝ている愛人が袖の上に眠っていたがゆえの話だが、提督からすれば同じだ。
愛するが故に、そっとしておきたいのである。
その愛は未だ男女の物にはならぬ青い物であるが、いつか熟す事も十分にある愛だ。
だから、提督は微笑んだ。
「今度はもっとゆっくりと、落ち着いてご飯が食べたいね……翔鶴さん」
「……はい」
翔鶴もまた、微笑んだ。
「では、失礼いたします」
「うん、ご馳走様」
提督の挨拶に、翔鶴は一礼して執務室から去っていく。
と、十秒も待たず扉がノックされたのである。
提督は思わず首をかしげて扉を見た。翔鶴が何か忘れ物でもしたのだろうか、と軽く室内を見回しながら声を上げた。
「どうぞ」
「球磨だクマー」
入ってきたのは、軽巡四天王五人組の被害担当艦、球磨型姉妹長女の球磨であった。
彼女は入ってくるなり、提督をじと目で見る。まるで女衒を見るような目である。提督としてはそんな目で見られる謂れはない。しかし、球磨からすればそれはまた違うのだ。
「さっきすれ違った翔鶴が、めっさきらきらしとったクマー……」
「いや、それを僕にいわれても……
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