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であるので、もし目にしても否定しないであげて欲しい。
何やら出撃時の台詞らしき物を口にして入ってきた翔鶴に、提督は曖昧な笑みを見せて頷くだけだ。翔鶴から見ても、やはりそこには常の提督らしさがない。
翔鶴達の提督は、見かけこそまったく普通の男だが、口を開けばたいがい可笑しい男であるのだ。こんな大人しい姿は、彼女としてもなかなかに衝撃的な物がある。
提督が上の空になるようになったのは、違う鎮守府の提督が来てからだ。そしてこの変化は起きるべくして起きた物だ。少なくとも、翔鶴を含む正規空母達は在る程度の背景を聞いて皆納得している。
――でも、だからと言って私というのはどうなんでしょうか……赤城さん。
翔鶴は、ぼうっとした提督に一礼した後、手にある弁当をテーブルの上に広げながら脳裏に浮かぶ自身達正規空母の筆頭、赤城の顔を思い浮かべた。
本来、今夜の当番は彼女の妹である瑞鶴であったが、赤城の
『今回の当番は、翔鶴がお願いします』
の一言で変更となったのだ。秘書艦の初霜まで証人として用意して、だ。
少しばかりぐずる瑞鶴であったが、赤城が耳打ちすると途端大人しくなり引き下がったのである。
いったい赤城は自身に何を期待しているのか、と心中で重いため息をついて翔鶴は、未だ執務机から離れない提督に声をかけた。
どうでもいい話だが、瑞鶴は次の第一艦隊空母枠の優先権で買収されただけである。決してその際にMVPを取って提督に誉めて貰おうなどとは考えていない。誇り高い新一航戦の瑞鶴がそんな事を考える訳がないのだ。多分。
「提督……準備が整いました。どうぞ」
「うん」
「提督……お夕飯ですよ?」
「うん」
「提督、メガロドンの学術名は?」
「カルカロドン・メガロドン」
「あぁよかった、いつもの提督ですね」
ほっと胸を撫で下ろし、翔鶴は提督へと静かに歩み寄りそっとその手を取った。
「さぁ、どうぞ」
微笑む翔鶴の相を見上げたあと、提督は自身の手を包む、彼女の手に目を向けた。その手は、白く細いが、指は意外に硬い。矢を番え海上を行くその身であれば、ただ美しく柔く在るだけを許されないのだろう。
提督は、翔鶴に誘われるままソファーに座り、テーブルに置かれた弁当を見た。
男一人が食べるにしても、随分大きな銀箱弁当だ。しかもそれが二つもある。陽炎姉妹などもそうだが、翔鶴達も男ならこれくらいは食べると信じているのだろう。
彼女達の基準は、若い海軍兵士や士官達であるから、それも仕方ない事なのだろうが、ここにいる提督はデスクワーク専門の凡人である。
食べきるにはなかなか辛いものであるが、用意されたそれを提督が残せるわけもなかった。
翔鶴が提督、彼女用のコップにお茶を入れて
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