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執務室の新人提督
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ですか?」
「……む」

 提督の言葉に、巨漢提督は後ろに立つ自身の艦娘、睦月へ目を向けた。車内で見せていた相から一変し、気遣うような顔だ。当然だろう。
 彼女はここの提督の人となりを自身では知らないのだ。少年提督や片桐中尉の様子からある程度は察する事が出来ても、果たしてどうなるのか、と自分の提督の心配をするのは艦娘として何も間違ったことではない。
 
「さぁ、ソファーにどうぞ」

 提督の催促に、少年と巨漢は頷いてソファーに腰を下ろした。それぞれの背後に、彼らの艦娘達が立つ。巨漢はもう一度睦月の顔を見ようとして、そっと後ろを窺った。
 視線がぶつかると、睦月は常に近い相で微笑んだ。
 
「失礼いたします」
「はい、どうぞ」

 小さく響いた少女の言葉に、この部屋の主である提督が返す。
 静かに、そっと執務室に入ってきたのは、この鎮守府の門前で彼らを出迎えた艦娘、初霜である。彼女は盆の上にあるお茶をそれぞれ前に丁寧に置いていく。
 ついで、二人の提督達の背後に立つ艦娘達に、缶コーヒーを手渡した。勿論、そっと、である。こういった場合はソファーに座らない相手には何も出さない物であるが、初霜としては礼に反しない程度に崩したかったのだろう。
 
 受け取った雪風と睦月は、淡く微笑んで小さく頷いた。三人の秘密、という事だろう。
 しかし、そんな物提督達には丸見えである。丸見えであるが、提督はそんな初霜をもふもふして誉めたい気分であるし、少年提督としても大歓迎である。巨漢提督も穏やかな相で佇むだけで、そこに何か含んだ物は見られない。
 
「まずは……改めて、この度は私が至らないばかりに、本当に申し訳ありませんでした」
「申し訳ありませんでした!」

 ソファーでもう一度頭を下げる巨漢提督に合わせて、その背後の睦月も頭を下げた。何故か少年提督とその艦娘である雪風まで、だ。
 いや、仲介として名乗り出ただけではなく、彼としても先輩の艦娘を助けてくれた提督に感謝の念があったが故にここまで一緒に来たのだろう。
 提督は、揃って頭を下げた二人の提督と二人の艦娘を見た後、頭をかいて口を開いた。
 彼らがここに来たのは、こうして直接頭を下げる為だ。それは提督も理解している。だからそれをどうにかしなければ、彼を今現在襲う居心地の悪さは改善されないのだ。
 
「はい、受け取りました。ですから、もう止めてください。なんですかもう、僕の背中がかゆくなってきたじゃあありませんか」

 冗談めかした提督の言葉に、少年提督は小さく吹き出し、巨漢提督は目を閉じた。艦娘達も自身の提督の変化を察知して、ゆっくりと顔を上げる。
 皆が顔を上げたのを見届けてから、提督は自身の背後に佇む秘書艦に掌を向けた。
 
「うちの秘書艦の初霜さんです」
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