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ある来客用の駐車場を見た。小型のバンから降りる二人の軍人と一人の艦娘を見て、睦月と彼は顔を見合わせて頷いた。
「……よし、行こうか」
「はいはいさー」
ソファーにおいてあった鞄を手に取り、巨漢と睦月は執務室を後にした。
「えーっとですね、一応、今日僕達が行く事を知らせてはいるんですが」
「……すまない、迷惑をかけた」
「あぁいえ、先輩頭を上げてください」
とある鎮守府に続く道を走るバンの中で、巨漢の提督が少年提督に頭を下げていた。彼らの後ろに並んで座るそれぞれの艦娘、雪風と睦月はお互い苦笑を浮かべていた。
「……こんな事を頼んだ上に、仲介まで……本当にすまない」
「いえ、その……先輩、僕は気にしていませんから」
士官学校の先輩、しかも階級では少年提督より上の巨漢提督が頭を下げ続けているのだ。少年提督としては居心地が悪い事この上ない状態である。どうすれば良いのだ、と巨漢の艦娘である睦月に目を向けても、自身の艦娘である雪風に目を向けても、返って来るのは苦笑だけだ。
彼女達としても出来る事がないのだろう。
困り果てた少年提督を助けたのは、運転席で車を走らせる片桐中尉であった。
「うちの坊ちゃんも困っております。そのくらいでお願いしますよ」
「片桐!」
坊ちゃん、と呼ばれた少年提督に鋭い一喝を食らわせた。が、その声は中性的で人を脅す迫力に欠けている。おまけに相は涙目で頬は朱をさして紅々としていた。小型犬に吼えられて怖いと思う人間は少ないだろう。
片桐は軍帽を深く被りなおして口を開いた。
「いや、これは失礼」
「本当だよ! っていうか片桐今笑っただろう! そこの鏡に顔映ってるからな!」
「いやいや、そんなまさか」
言い合いを始めた主従を、巨漢は穏やかな目で見つめた。そんな彼に、片桐が声をかけた。
「しかし、申し訳ありませんでした」
「……さて、何がでしょうか?」
歴戦とはいえ、一中尉に過ぎない片桐にも巨漢提督は丁寧に聞き返した。慇懃無礼であるとか、そういった素振りや気配は一切ない。まるで禅僧の様な穏やかさで巨漢提督はそこに在るだけだ。
「いえ、こちらのわがままでそちらに注文をつけてしまって……本当に申し訳ありません」
「……その事ですか」
巨漢提督は片桐中尉の言葉に、自身の後ろの座席に座る睦月を見た。睦月は久方ぶりのお出かけにご機嫌である。同じくご機嫌の雪風と話す姿など、どこからどうみてもただの女学生だ。
が、よく見れば睦月の相には無理が見て取れた。彼女自身、やはり緊張があるのだろう。妹を助けてくれた鎮守府であるから、まったく常の通りとは行かないものだ。
巨漢提督は運転席でハンドルを握る片桐中
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