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しても、他の誰かが来るだけなのだから、と。
「たしか、あの鎮守府の提督だったでちか……」
ゴーヤは潜水艦娘寮へと続く道を歩きながら、星を見上げて一人小さく呟いた。先日、大淀がとある鎮守府の提督が来る旨を皆に伝え、近隣の清掃や注意を促していた。その来客に該当する人物は、彼女の中にある情報の一つだ。
体つきの大きな、それでいて草食動物の様な穏やかな双眸を持つ提督である。提督の友人である少年提督の先輩に当たり、年齢と階級はゴーヤの提督よりも上だ。
が、そんな情報を赤城達が欲しがる訳がない。
彼女達が欲しい情報は一つだ。だからこそ、赤城は何も言わぬゴーヤに何も返さず帰ったのだ。
害なす存在かどうか。
ただそれだけだ。
何も応えぬゴーヤに、赤城は答えを見たのだろう。そういった存在ではない、と。そうでなければ、ゴーヤ達がまず提督に報告している筈なのだ。先ほどまでの居酒屋での会話は、飽く迄赤城達による確認だ。
私達は傍観でよいのか、どうなのか、という。
結局、ゴーヤは何もそれらを一切口にしなかった。ゴーヤにも守るべき事があるからだ。
そんなゴーヤに、無理にでもと口を割らせ様としない赤城にゴーヤは感心していた。流石正規空母の筆頭、そして提督の艦娘である、と。
赤城はよくゴーヤ達を理解している。いや、赤城自身も戦場において艦載機を縦横無尽に走らせて情報を取捨選択する立場である正規空母ゆえに、共感出来たのだろう。
拾い上げた情報の扱い方も捉え方も違うが、それもまた在り方の違いであると。
ゴーヤ達潜水艦娘は多くの情報を持っているが、それは彼女達の物であって彼女達の物ではない。
ただ、提督が開示せよと命令した時だけ、ゴーヤ達の口から語られる物なのだ。
彼女達の情報はただ一人の為に集められた。たった一人の男を守るが故に、だ。
それは艦娘達の物ではない。あってはならないのだ。
ゴーヤは立ち止まり、外套の下にある提督指定の水着をそっと撫でてを息を吐いた。再び淡く白いそれが宙に溶ける様を見届け、そしてまた一人小さく言葉を零した。
強い意志が込められた瞳の中に、夜空に浮かぶ淡い月の姿を湛えて。
「提督……月が綺麗でち……」
彼女の耳には、死んでもいいわ、とは聞こえてこなかった。聞こえたとしても、きっとゴーヤは慌てて首を横に振っただろう。
忍び、忍んで、まだ偲べない。
ゴーヤは潜水艦だ。提督の潜水艦だ。まだすべき事がある。
今はまだ、提督の愛に溺れて沈む訳には行かないのだから。
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