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執務室の新人提督
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に取った。
 
 お互い、また何も喋らない。静かな座敷の中で、僅かに食器とテーブルのぶつかる音や、箸が茶碗、または皿をついた音だけが木霊する。
 二人は、特に親しい友人という訳ではない。こうして食事を共にする事はあるが、本当にただの同僚だ。いや、ただの同僚と言うには、少々遠慮なさ過ぎるところがあるのだが、これも二人の中では僚艦同士のじゃれ合いなのかもしれない。
 お互い、正規空母、潜水艦のまとめ役として、肩の力を抜きたい時もあるのだろう。
 
「ごちそうさまでした」
「ごちそうさまでち」

 二人は同時に手を合わせ、食事を終えた。
 正規空母赤城と潜水艦娘ゴーヤは、同時に食べ終えたのだ。赤城は健啖家ではあるが、ゴーヤは小食家の代表の様な艦娘だ。いや、潜水艦娘は皆小食であるが、ゴーヤは小食の上に食事の速度も遅い為、特に目立つのである。
 健啖家で食べる速度も速い赤城と、少食家で食べる速度も遅いゴーヤであるからこうして食事を終えるのはいつも一緒だ。
 この辺りも、二人が偶にとはいえ一緒に食事をする理由なのだろう。
  
 赤城は湯飲みの中身を飲み干すと、手に在るそれをゆっくりとテーブルに戻し、同じ様にお茶を飲み干していたゴーヤに目を向けて
 
「……問題はありませんか?」

 そう言った。その言葉に、ゴーヤは何も応えない。
 主語のない赤城の言葉に、疑問の相を浮かべるでもなく、何かを誤魔化すでもなく、ただ黙っているだけだ。
 
 ゴーヤは感情の消えた顔で赤城を見た。ゴーヤに応じる赤城の顔も、またどこか冷たげだ。先ほどまで赤城の相を覆っていた、柔らかい彩りは消え失せてしまっている。
 ゴーヤはそんな赤城を見返しながら、平然と口を開いた。
 
「何もないでち。あとは提督の言葉を待つだけでち」
「そうですか、それは良かった」

 赤城は穏やかな相に戻って二度三度と頷いた。その後、テーブルにある伝票を手にとって、座敷の外套かけにかけて置いた、ゴーヤと同じデザインの黒い軍用外套に袖を通した。
 
「赤城、ゴーヤの分は出すでち」
「良いですよ、ここは私に出させてください」
「でも……」

 と続けようとするゴーヤに、赤城は掌を見せて首を横に振った。
 
「御報謝」

 短く、またはっきりと言った赤城に、ゴーヤは暫し黙った後苦笑を漏らした。
 御報謝、等と今時まず聞くものではない。ゴーヤ達が艦で在った頃でも、だ。様々な意味を持つ言葉だが、この場合赤城が口にした御報謝、とは江戸の時代など、旅する僧侶や見るからに苦労している旅人に、人々が僅かばかりの金銭などを渡す際口にした物であろう。明治や昭和の初期辺りならまだあった風習かもしれないが、海で生涯を終えた彼女達は知らぬ物である。
 それでも、今の彼女達は
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