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自身の所属する鎮守府の名を名乗り、初霜は相手の声を待った。相手は初霜とここ最近よく電話越しにやり取りをする違う鎮守府――少年提督の大淀であった。
「はい、はい……提督、ですか?」
初霜の声に、提督は目を上げた。彼も机で書類を仕事をしていたのだろうが、自身が呼ばれた事が気になったらしい。初霜は目で、どうしましょう、と問うと提督は黙って、こっちに、頷いた。
流石に山城ほど目で会話は出来ないが、この程度なら初霜でも可能だ。初霜は電話を操作し、提督の机に在る電話へと回線を回した。
「はい、あぁどうもどうも。いつもお世話になっております。え、秋刀魚ですか? ああいえ、あれくらいなら別に……はいはい」
提督は相手も見えないというのに、電話越しでも相手に頭を下げたりしていた。艦娘相手に提督が、と初霜は思うが、それもまた提督なのだとも思う。
初霜の目の前にいる提督の様な人間だからこそ、この鎮守府の皆は自由に、らしく在る事が出来るのだ。少々自由すぎるところはあるが。
そんな風に考えている初霜の耳に、それまでとは違う戸惑いがちな提督の声が届いた。
「え……はい……はい? え、インファイト仕様の如月、ですか? え、颯爽と深海棲艦を殴り倒した? ……それは本当に如月ですか? 霧島の見間違いじゃありませんか?」
そう返す提督に、初霜は八の字を寄せた。執務室に篭り、海上にも出れない為艦娘達の作戦行動中の姿を知らない提督に、いいえ、それは間違いなくうちの如月さんです、と無理なく伝えるにはどうすればいいのかと悩んだ為だ。
僅かな時間で、初霜に立て続けで様々な事が起きている。彼女は今日は厄日か何かではないのか、と考えた後、提督を見てその考えを改めた。
確かに、彼女の肩は重くもなり、胃も痛んだ。だがそれだけの事だ。
――提督の傍に居て、提督とお話できて、提督を守ることが出来る。
なら、それで本望だと初霜は微笑んだ。
彼女は初霜である。
一水戦にもっとも長く所属した、古くて小さい、最高の盾だ。
後日談
初霜が長い廊下を歩いていると、窓の傍に一人の人影があった。ぼんやりと外の風景を見るその人影は、四水戦所属の野分であった。
初霜にとって縁遠い艦娘ではない。彼女はそっと野分へ近づいていった。
「あの……どうかしましたか?」
「あぁ……初霜」
野分は自身の姉の親友、初霜の気遣う相に首を横に振った。心配されるような顔をしていたのか、と反省しながらだ。
「私でよければ、聞きますよ?」
「……」
初霜のその優しさに、野分は言葉を失った。いや、こうだからこそ皆と提督の橋渡し役が出来るのだろうと胸中で頷き、小さく零した
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