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よ、神通」
少しは落ち着きを取り戻したのか。頬に朱をさし俯く神通に、阿武隈がおずおずと言う。ただし、阿武隈はまだ初霜の背後である。長良姉妹の末っ子である為、すぐ人に甘えてしまうのだろう。だがそうなると自分はどうすればいいのか、と現状では初春型末っ子の初霜は胸中でため息をついた。彼女は提督の為の盾であるが、阿武隈の為の盾ではない。
まして相手は最強の矛である。初霜からすれば、最強の盾である阿武隈に頑張ってほしいところであった。
「では、私はどこで殴り方や絞め方の訓練をすればいいのでしょう」
「まずその物騒な発言からやめましょう」
拳を握って、きりっ、と発言する神通に初霜は普通に駄目出ししておいた。
ちなみに、初霜の背後に隠れていた阿武隈はこの時点で軽く気を失っていた。彼女も任務外となると、とことんアレである。
長い長い廊下を歩いて、初霜は重く長い溜息を吐いた。とりあえず、二人にはその様な物もあると考えて前向きに善処しておきます、と濁して初霜は二人から離れたのだ。戦術的撤退とも言う。彼女は終わった分の書類を大淀に渡しにいっただけで、決して言い知れない疲労感を溜め込む為に執務室の外へ出た訳ではない。
このまま外にいては危ない、と警告する自身の本能に従って、初霜は執務室へと小走りで急いだ。彼女にとっては緊急の事態であるから、これは仕方ない事である。
初霜は見慣れた執務室の扉を見つけると、少しばかり背後を確かめた。なんら意味のない行動であるが、少し出ただけで妙に肩が重くなった初霜には必要な行動に思えたのだ。
何もない、誰もない事を確かめてから初霜は扉を開けた。
「あぁ、おかえり初霜さん」
提督の言葉が、初霜の耳を撫でた。
たったそれだけで、初霜の重かった肩も、妙に痛くなっていた胃も常の調子に戻る。初霜は笑顔で、
「はい、初霜ただいま戻りました」
そう返した。
常より明るい初霜の相に提督は一瞬、おや、といった顔を見せたがすぐ笑顔で頷いた。提督にとっては艦娘達の屈託のない笑顔は清涼剤であり宝だ。
事情は知らずとも、何も問わず笑顔を見せる提督に初霜は一礼し、自身の為にと用意された小さな秘書艦用の机に向かって歩いていく。
その机の上にあるのは、今日の初霜の仕事分だ。本当に重要な仕事は全部大淀に回っているが、それでも彼女や提督がすべき事もある。
「えーっと」
初霜は机の上にある書類に軽く目を通し、優先順位をつけていく。朝一番に終えた作業だが、現状で見落としがないか確認する為だ。
と、秘書艦用の机の上にある電話が鳴った。小さな長方形のディスプレイに映る相手の番号は、馴染みの番号だ。
「はい、もしもしこちら――」
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