暁 〜小説投稿サイト〜
執務室の新人提督
50
[3/6]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
も上司なのだ。自然、初霜は敬礼をとってしまうのである。決して神通の訓練で仕込まれた訳ではない。決して神通との訓練でこの人にだけは逆らわないでおこうと思ったからではない。
 
「初霜ー、聞いてよぉ」
「……初霜も、意見をお願いします」

 背を伸ばして敬礼を続ける初霜に、阿武隈と神通は陸に居る時の――作戦行動や護衛任務外の、常の相で接した。
 この二人はどうしてこうも、作戦行動中と普段がかけ離れているのだろうか、と不思議に思いながらも、初霜は敬礼をとき首を傾げた。
 
「はい、なんでしょうか?」
「聞いて聞いてよもー……神通が、一水戦と二水戦の合同訓練やろうって」
「はい……どうでしょう? 私は、お互いの為に必要な事だと思うんですけれど……」

 今にも泣き出しそうな顔で詰め寄る阿武隈と、その阿武隈の後ろから控えめに提案する神通は対照的である。ただし、両者共に初霜の同意を得ようとする熱意だけは強かった。
 なにせ初霜は提督の秘書艦である。彼女の同意があれば大抵の事は通るのだ。両者共に目に力を込めるのは、当然の事であった。
 困ったのは、そんな瞳を向けられた初霜である。
 
 彼女としては阿武隈の気持ちも分かる。少女として自身の興味がある事に空いている日を使いたいのは理解できるのだ。特に阿武隈などは少女らしくあるタイプなので、それらに時間を割きたいと思う気持ちは一入だろう。
 だが、同じように神通の気持ちも初霜には分かるのだ。
 駆逐艦、軽巡洋艦に求められる迅速な行動力を増す為に持久力をつけ、実戦に近い形で動くことで本番に備えようとする考えには、初霜としても同意できる物である。

「那珂が熊殺しをしようというのです……姉である私も、それと同様の試練を受けなくては――艦娘として……っ!」
「それは本当に艦娘でしょうか……」
「そうそう、そうそう!」

 神通のこういうところは初霜には同意できないところである。初霜の言に必死になって首を縦に振る阿武隈も理解できない事であるらしい。実際には熊よりも深海棲艦の方がよっぽど危ないのだが、初霜と阿武隈からすれば、それはそれ、これはこれである。
 
「では、私はいったい何を殺せばいいのですか……っ!」
「やだ……この人怖い……」

 焦りを過分に含んだ神通の物騒な言葉に、阿武隈が本気で引いた顔で初霜の背後に隠れた。初霜としては、上司のそんな姿を見たくはなかったが、先ほどの神通の台詞は確かに一人の少女を怯えさせるに相応しい物であったと妙な納得をしていた。
 那珂の山篭りを知って、神通は神通なりに焦っているのだろうが事情を知らない者から見れば、ただただ物騒な言動である。
 
「……そう、ですね……すいません、確かに変な事を言いました」
「う、うん……ちょっと怖かった
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ