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執務室の新人提督
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さん……」
 長月ほどではないしても、普段武人然とある菊月の様に、初霜は同情を禁じえなかった。あまりに不憫である、と目じりに涙さえ浮かべた。
 
「まぁ、なんにせよそんな状態でさぁ……初霜なら誰か空いてる奴知ってるでしょ? 誰か良いのいないかなぁ……?」
「四水戦の皆には?」

 川内のお願い、といった顔を目にしても初霜は冷静だ。通常、1から3の水雷戦隊の欠員を補うのは四水戦の仕事である。ゆえに、初霜はそれを川内に問うた。
 
「……今日は那珂のやつ、全員つれて山篭りだって。まったく、あいつは……」
「……え?」

 初霜はポケットにある小さなメモ帳を取り出して中を確認し始めた。簡単にではあるが、主要メンバー達の今日の予定が書かれた物だ。表紙をめくり、そのまま今日の予定まで飛ばしていく。
 初霜は手を止め、目当ての頁へと目を落とした。
 
『四水戦メンバー、特殊訓練』

 とだけある。てっきり海上での訓練、またはグラウンドでの物だと初霜は思っていたのだが、これがまさか山篭りであるとは理解できなかった。いや、普通艦娘の行う特殊訓練と聞いて、山を想像する者はいないだろう。
 
 ――次からは確り聞こう。うん。

 胸中で頷いて、初霜は川内に目を戻す。と、川内は何やら那珂への愚痴を零し続けていた。

「今回だって、今時のアイドルはもっとハングリーじゃないといけない、とか言い出してさ……この前なんて、片眉剃って熊殺しやろうかどうかで、神通と凄い話あっててさ……二人とも無駄に真剣で、殴り方やら絞め方やらと……もうお姉ちゃん心配だってのよ……」
「……それはアイドルですか?」

 目を瞬かせて聞く初霜に、川内は肩を落として首を横に振る。彼女達が知る限りそんなアイドルは居ない。そんな空手家なら居ただろうが。

「うむ……どこも姉妹関係は難しいのだな……」

 しみじみと呟かれた長月のその言葉は、本当に重いものであった。


 
 
 
 
 
 川内の要請に、本日体の空いている姉の子日を呼んで対応した初霜は、再び廊下を歩いていた。菊月にケーキでも差し入れしようと考えながら歩く初霜の目に、二つの人影が入ってきた。
 その二人の人影をはっきりと認識した瞬間、初霜は背を伸ばして海軍式の敬礼を行った。
 
「おはようございます!」
「え……あぁ、よかったぁ……初霜ー、助けてよー」
「あぁ……おはようございます、初霜」

 初霜の挨拶に応じるのは、一水戦旗艦阿武隈と、二水戦旗艦神通である。一水戦所属、とされている初霜であるが実際にはどちらにも籍を置いている。状況に応じて盾にも矛にもなるのだ。これは初霜だけではなく、他にも霞などがこの形で両方に所属している。
 つまり、今初霜の前に居るのは二人と
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