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火線が奔る。早く、速く、迅く。
ただの遠征任務が、不確定な深海棲艦の動き一つで交戦状態に陥るのは珍しい事ではない。ただ、その為に必要な火力が不足する事も、珍しくない事だ。
このまま沈む。このまま散る。そのまま消える。
様々な恐怖が少女の脳髄を侵していく。
「あぅ……! くそ……!」
小さく叫んだのは、少女の――この遠征部隊の旗艦、由良だ。普段穏やかな彼女が、余裕もなく舌を打つ時点で状況は見えている。少女の周囲に居る少女と同型の姉妹達も、皆浮べる相に希望の色は見えない。一層清清しいほどに、この場にいる遠征部隊の皆が浮べる相は絶望だ。
そしてそれは、少女もまた同じであった。
せめて今度こそ。今こそ。そう願って生きてきた。頑張ってきた。
艦で在った頃、特に目覚しい活躍もなく消えたのだから、今こそは、と。それが皆の為になって、鎮守府の為になって、そして――
――あぁ、司令官……
少女の脳裏に浮かんだのは、岩の様なごつごつした顔に穏やかな双眸を持った提督の顔だ。それだけが彼女の幸せであった。例え体は恐怖に震えようと、心の奥には大事な人との記憶がある。
ただ、それを胸に抱いて死ぬ事で、少女の優しい提督が傷つくだろうという事が、少女のもっとも深い悲しみであった。
深海棲艦達が、滅びの足音と共に少女達に近づいていく。誰も逃すまいと、何一つ助けまいと、何一つ許すまいと。空に砲華が咲き乱れ、水面に仄かに映りこんだ紅のそれを踏み乱して、おぞましいそれが。その目に狂気を宿して近づいていく。
全て、この海の全て、在る全てをその瞳に映した狂気で塗りつぶしてやろうと。
だがそれは。
たった一発の小さな砲撃によって希望へと塗り替えられた。
「……だ、誰?」
旗艦の由良が、皆を見回す。ただ、誰も砲撃など行っていない。そんな余裕すら彼女達にはなかった。
と、そんな少女達と深海棲艦の間を割って入ってきた人影があった。彼女の手に在る機銃から、硝煙があがっている。砲身からあがる煙の消え往く先を見届けるように、少女は機銃の主を見上げた。
「あらあら。お邪魔だったかしらぁ?」
そこに、少女と同じ顔を持つ少女が、少女とは違う服装で居た。
少女とはまったく違う、自信に満ちた相で拳を握って。
「ふぅ……」
先ほどまで自身がいた港が望める小さな広場にあるベンチで、その少女はもの憂げな相で小さく息を吐いた。風に梳かされる長い髪を押さえる手つきはどこか艶やかさがあった。
ただし、
「あぁ……暇だわぁ」
その体つきは仕草に反して幼い。女性的な曲線には遠い、とまでは言わないが肉厚的な魅力には乏しい体つきだ。背丈もそう大きなも
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