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執務室の新人提督
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でした如月からすれば、それは冒涜ですらあった。
 
「あーなーたーはー」
「ひーはーひー!」

 如月は苛立ちの余り、深雪の頬を引っ張って口を動かす。
 
「姉達を見習ってもう少し色々考えなさいよ。宝の持ち腐れなんて、一番やっちゃ駄目な事よ?」
「いやぁ、でもうちの姉達だってそんな見習う程のモンじゃないぜー?」

 如月の指が離れた頬を撫でながら、深雪は目じりに涙を浮べて返す。その声音には苛立ちも反感も含んでは居なかった。つまり、本心からそう言っているという事だ。
 それに、また如月は溜息を零した。
 
 吹雪型――特T型姉妹の上三人と言えば、提督の1番艦でありベテランの吹雪、鎮守府古参にして駆逐艦の相談役白雪、駆逐艦のエースにして比叡の弟子である初雪と、個性豊かな如月達の鎮守府に在って存在感を放つ傑物達である。
 それを深雪は、見習う程のモンじゃない、と言うのだ。
 どちらかといえば、強烈な個性達の中に埋没しがちな如月としては、深雪の姉譲りなそのもっちもちの頬を千切りたいと思う程度に怒りを覚えるのも仕方無い事であった。
 もう一回頬を引っ張ってやろう、と考えた如月は、しかし深雪の次の言葉で動きを止めた。
 
「やめろよー。八つ当たりなんて如月らしくない」

 急激に、如月の中で様々な物が冷めていく。先ほどまでの深雪への怒りも、手に在るコーヒーが紅茶でない事への些細な怒りも。如月の中で代わりに熱くなったのは、この世界への怒りだ。
 如月は先ほどの深雪の様に、豪快にコーヒーを飲むと、ぷはー、と息を吐いて握り拳を掲げた。

「ぬるい!」
「え、それコールドだぞ?」
「ぬるい!」
「あ、はい」

 深雪の突っ込みも無視して、如月は鋭い眼差しで続けた。決して茶化してはいけない、と深雪は適当に相槌をうった。ちなみに深雪は朧曰く、本能的に長寿タイプ、と言われている。漣の姉だけあって、あの娘もどこか変である。
 如月はゴミ箱へ空になった缶を全力で放り投げた後、ふんす、と鼻から息を吐いて続けた。
 
「どいつもこいつも、誰も彼も、ぬるいのよ。泣いて運命を受け入れる余裕があるなら、ドラム缶で敵を殴ればいいじゃない。悲劇のヒロインなんて、それこそ自分の司令官に対して失礼よ」
「あー……」

 如月が口にする意味不明な内容は、しかし深雪には理解できる物であった。深雪の同意ともとれる様子に、如月は目を細めて小悪魔的な笑みを見せた。これも練習中の技である。
 
「なによ、やっぱり睦月ちゃんから何か聞いていたんでしょう?」
「……ん、まぁ、今日の遠征であった事くらいは?」
「あなたも、暇人ね」
「そうでもないぞー? 深雪様はなんてったってスペシャルだからな!」

 如月の返す深雪は、それまでと変わらぬ調子
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