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執務室の新人提督
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ろう艦娘、初風に目を向けた。
 陽炎の視線を受けた初風は腕を組んだまま頷き、その唇を動かし始めた。
 
「少なくとも、前みたいに動いたり喋ったりはしなかったわ。でも、それでも提督と食べてる最中に進化したこともあったから、なんとも……」
「そう、ね……それはもう、黒潮に期待しましょう」

 陽炎はここに居ない妹、黒潮に万感の思いを込めて目を閉じた。
 各時間の弁当当番になって最も得な事と言えば、出来上がった弁当を提督へ届け、一緒に朝食を食べられるという事であろう。この鎮守府の艦娘達にとっては、喉から手が出るほどに欲しい権利である。
 
 今回その権利を得たのは、陽炎姉妹の三女黒潮と、12女である磯風であった。
 通常弁当を届ける艦娘は1人と決まっているのだが、陽炎姉妹は特に数が多いことから、一度に二人までの特権が認められたのだ。もっとも、これは彼女達だけではなく、睦月姉妹と夕雲姉妹にも認められた権利であるので、彼女達だけの特権とは言い難い。
 ちなみに、こちらも大家族の吹雪型は当初から特T型、特U型、特V型と別々に弁当当番を担当していたので、この話には特に絡まない。
 
「しかし、何故磯風の料理はあぁなってしまうのでしょう? 不知火にはとても不思議です」

 眼光鋭く周囲を見る不知火の言葉は、皆の疑問でもある。ただ、それに的確な答えを持つ艦娘はここにはいない。いや、どこにもそんな存在はいない。
 恐らく磯風の料理の真理に一番近いのは比叡だろうが、比叡も疑問に答えられるだけの物は持っていないだろう。いや、持っていたとしても答えないに違いない。人の触れて良いものではないと比叡は理解し、何も語りはしないだろう。
 そう、名状し難き冒涜的な外宇宙の神々の眠りを、徒に妨げるべきではないのだ。
 
「磯風の料理がどうこうって辺りは、谷風さんにはさっぱりだよ。助けてあげるにも限度ってモンもあるってもんさ。あとは黒潮が上手く提督を助けるのを期待するだけだねぃ」

 それまで黙っていた谷風が、自分の肩を揉みながら皆に言った。意外に面倒見がいい、と言われる谷風でもそこまでは助けられないのだろう。
 ここにいない黒潮と磯風は提督との朝食権を得たのだ。二人は少し前に、清潔な布に包まれた弁当箱と、味噌汁を入れた魔法瓶をもって執務室へと向かった。であれば、もう黒潮に縋るしかないのである。
 
「しかし提督さんと一緒にご飯かい……かぁーっ、谷風さんも一緒したいもんだねぇー」
「あれまぁ、意外っちゃ意外ねぇ。谷風はそういうの興味無さそうだけれどさぁ?」

 からからと笑って言う谷風に、秋雲が軽く絡んだ。が、それは陽炎なども思った事である。谷風という艦娘から出た言葉にしては、先ほどの言は少々乙女的だ。谷風の普段の行いや言葉遣いからは想像でき
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