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根を食べながら提督は黙っておく事にした。
「……そう言えば」
吹雪はオレンジジュースをちびちびと飲みながら、秋刀魚うめぇ、と添えられたたんぽぽを食べている提督に問うた。
「提督はお酒とかは飲まないんですか?」
「うーん……」
吹雪の言葉に、鳳翔も提督へ目を向けた。二人の前で頭をかいている提督は、間宮に行こうと鳳翔の店に来ようと、酒を頼んだことがない。酒保にある酒を購入したという話もなければ、誰かと一緒に飲んだ、という話もない。気になるのは当然の事であった。
「飲めない事はないんだけれど、飲むのはねぇ……」
「えー……じゃあ、じゃあ好きな銘柄とかは?」
「……特に無いかなぁ」
嘘だ、と吹雪と鳳翔は思った。何か根拠のある物ではない。ただ、二人はそう感じた。感じて、この人らしいと思いもした。
間宮食堂、そして今三人がいる鳳翔の居酒屋では一つ流行っているメニューがある。金剛と霧島の隣に座る際、天龍と木曾が口にしたメニューが、今の流行だ。
『いつもの』
そう言って出されたのは、今鎮守府で余っている秋刀魚を使った定食であった。つまりそれは二人の、いつもの、ではない。原因は提督だ。
彼は偶に足を運ぶ間宮食堂で、間宮相手に冗談で、いつもの、と言ったのである。偶の来店で、だ。それを聞いた間宮は、冗談だと分かった上で微笑み、お任せメニューとして受け取って作ったのである。
これを、皆が真似始めた。
提督、という人間は目立つ存在だ。当人がいくら凡庸でも、人ごみの中に混じればもう見分けがつかない様な存在でも、その提督の下に居る艦娘にとって絶対的に目立つ存在だ。
そういった存在が常識の範疇で遊び、常識の範疇で行動すれば、艦娘が真似るのは時間の問題であった。普段の提督は真似るには少しばかりあれだが、いつもの、というのは真似やすかったのだろう。本当に、あっという間に広まったのだ。
だから、提督は言わない。口の中にあったたんぽぽを飲み込んで、余っている秋刀魚をせめて少しは、と頼み、夜のお弁当当番の為に軽い物しか食べなかった提督は、何も言わない。
彼が愛したのは、ただ彼女達らしく在る彼女達で、彼自身の色に染まった彼女達ではない。すこし手遅れな所もあるのだが、それは彼の知らぬ事である。故に、彼は黙るだけだ。
それが正しい事であるのか、間違った事であるのか、判然とさせるには時間が必要であった。
皆が静かになったその場に、一つの音が響いた。
居酒屋の扉が勢いよくあけられたからだ。扉には準備中の札が在った筈であるが、それを無視してあけたとなれば何か理由があるのであろう。
そう思って三人があけた人影の顔を見ると、ビスマ、グワットであった。
「提督……貴方うちの
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