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港から甘味処へと続く道を歩く二つの影があった。一人は特徴的な臍だし制服を着た重雷装巡洋艦娘、提督の切り札の一人大井だ。となれば、その隣を歩くのは大井と同じ制服を着込んだ黒髪の少女かと思われるかもしれないが、違った。
茶色の髪をショートで揃えた白い着物と短い袴姿の少女は、戦艦娘比叡である。
二人はそれなりに親しげな調子で会話を交わしながら、甘味処へと歩いていた。
「比叡さん、本当なんですか?」
「本当、本当本当ですって。この前私、伊良湖さんから直接お願いされましたもん」
えへん、と胸を張る比叡に大井は何も返さなかった。これが姉妹達であれば、それ本当? と念押しも出来るのだが、大井の猫かぶりは、それなりに親しい、程度でははがれないのだ。
それに、特に念押しをする必要も無いからだ。
比叡という戦艦娘はとあるスキルのせいで悪目立ちしている感があるが、実際には善良な人物である。調理台に立っていない時の比叡は、まず信頼して良い女性なのだ。
あとどうでもいい話だが、北上が同じような言葉で誘った場合、大井はただ頷くだけだ。それはもう勢い良く頷いてありもしない尻尾をブンブンと振るのだ。ちなみに、提督がさそっても素っ気ない顔で見えない尻尾をブンブン振るので、彼女が被っている猫の下には、きっと犬が潜んでいるに違いない。
二人の目に伊良湖が営む甘味処の暖簾が入ってきた。白い布に黒一色で書かれたそれは、鳳翔入魂の一筆である。人の温もりを求めた伊良湖が、鳳翔に頼み込んで書かれた甘味処、という文字が風に揺れていた。
それをくぐり、大井と比叡は店内へと足を踏み入れた。
「こんにちわー、大井さんと一緒にきましたー」
「……どうも」
比叡の屈託の無い明るい声につられて、大井も声を上げた。比叡に比べれば愛想も無い声と言葉であるが、常の大井はこんな物であるから誰も気にしないだろう。
事実、
「あ、いらっしゃいませ。比叡さんも大井さんも、態々ありがとうございます」
そう言って頭を下げる伊良湖はまったく気にしていない様子だ。むしろ客商売のせいか、当人の性格によるものか、彼女の方が申し訳無さそうに苦笑いを浮かべていた。
「すいません、試作品の試食なんてお願いしてしまって」
「いえいえ、私も楽しみでしたから」
「……そうですよ、伊良湖さんが気にする事なんてありませんから」
比叡にあわせて、大井も伊良湖に頭を下げた。
彼女たちがここに来たのは、伊良湖が口にした通り試作品の試食の為だ。
「それにしても、すいません」
「……? 何がですか?」
伊良湖は少しだけ大井を見て微笑んだ。それに首を傾げたのは比叡であるが、見られた大井も内心では比叡と同じように首を傾げている。
「友
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