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法は宮中の作法にまで通じている。おまけに花嫁修業も一つを除けば完璧なのだ。
まさに教官役にうってつけの艦娘と言って良いだろう。
「まぁまぁ、僕の教育方針は、霞さんとか大淀さんと相談してからで」
「鳳翔さんと雷ちゃんで」
「古鷹さんと夕雲さんで」
「やーめーてーよー! だだ甘えさせコンビ×2とか、あれだぞ、僕が次の日廃人になってるよ?」
「あら、何か楽しそうですね?」
音もなく襖を開けて、伊良湖が座敷へと入ってきた。いや、音はあったのだろう。ここに来るまでの足音も、襖の音も、おそらくは入室の伺いも。
ただ、皆気付けなかったのだ。会話に夢中で。
「すいません、余りに楽しそうな声だったので、お断りもなしに入ってしまいまして」
「いえいえ、お気になさらず」
伺いはしていなかったらしい。伊良湖は手に在る盆から皿を取り、それを皆の前に丁寧に並べていく。皿の上にあるのは、白蓬桜の三色の最中だ。
並べ終えると、伊良湖は皆から少し離れたところで正座した。提督達の評価を聞くためだろう。
「いただきます」
提督達は伊良湖と最中に一礼して口に運んだ。
「単純なお菓子で、確りした食べ物を作るって、やっぱりプロは凄いですねー」
「……そうですね」
比叡は上品に湯飲みを傾け、大井はなんとなくそれを眺めていた。比叡という艦娘の一面がそこにあるからだ。例えば、彼女の礼儀作法での弟子初雪も綺麗に食事を摂るが、やはり師にはかなわない。僅かな、些細な日常の作法まで自然と美しい物になって一流なのだろう。
大井の目の前に居る比叡の様に。
おまけに、比叡という女性はプロから試食を頼まれるほどの確かな舌を持っている。持っているくせに、作らせたら大変な事になるのだ。
比叡という艦娘は知れば知るほどに、正しく摩訶不思議な艦娘であった。
「で……大井さん」
「なんですか?」
二人がいる座敷には、もう伊良湖の姿も提督の姿もない。伊良湖は午後の開店前の準備を始め、提督は仕事の為執務室へと戻っていった。その際、比叡が
『あ、今誰か動いた』
と漏らした。おそらく提督の護衛だ。ただ、比叡に察知されるという事は阿武隈ではない。それ以外の誰かが今日の担当だったのだろう。
「大井さんは、それでいいの?」
「比叡さん、何を言っているのか――」
そこで、大井は口を噤んだ。大井が見た比叡の瞳が、ここに来た時と同じ静かな物だったからだ。
「提督の……隣に座れば良かった、と?」
「大井さんは、きっと素直になった方がいいですって」
穏やかに笑って返す比叡に、大井は一人の軽巡艦娘の顔を思い出していた。見た目やタイプは違うが、そこに宿
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