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執務室の新人提督
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なこと」

 大井の言葉で相を一転させた比叡は、散歩を前にした犬の様に全身で喜びを表していた。正座したままで。実に器用な娘である。
 
 そんな二人を見る提督の目は、本当に嬉しそうな物であった。自身の艦娘達が、こうして日常を過ごしているという事が彼にとっては堪らなく嬉しい事なのだろう。彼がディスプレイの向こう側に注いだ無償の愛が、今こうして比叡と大井を繋げているのだとしたら、それは彼にとっての最高の報酬だ。
 一人庭で遊ぶ孫達を眺める老爺の様になっていた提督は、二人を見てある事に気付いた。
 
「……あぁ、練習艦友達か」

 何気なく呟かれた提督の言葉に、比叡と大井は提督を見てから互いの目を見た。比叡は笑い、大井は黙って目を閉じる。
 
「そう言えばそうでしたね、私全然気付きませんでした」
「もう……比叡さんは色々駄目すぎます」
「だ、駄目じゃないです! 金剛型戦艦二番艦、この比叡駄目な子じゃありませんよ!」

 大井の言葉に比叡は反論を始めた。
 この二人、提督が言う通り練習艦で在った頃があった。艦種は違えど二人は艦時代、間違いなく次代の青年達の育成の為に海上を駆ったのだ。
 それが例え戦場への誘いの一歩だとしても、彼女達の上で青年たちは青春を謳歌したのだ。
 
「こんな人が御召艦だなんて、もう信じられません」
「酷い、司令、大井さんがなんか色々酷い!」
「大井さんはねー、その人と親しくなると毒を吐くタイプだからねー」
「て、提督……!」
「おぉ、こわいこわい」

 泣きつく比叡、眉間にしわを寄せる大井、肩をすくめる提督。三者三様の姿であるが、場の空気は決して悪いものではない。
 
「人を怖いなんていいますけれど、提督。この比叡さん、今日の砲撃訓練で駆逐艦娘を半泣きにしてましたからね」
「お、大井さんだって雷撃訓練で駆逐艦の子半泣きにしてましたー! してましたよー!」
「あぁ、お疲れ様です」
「提督……!」
「司令!」

 最後の二人の言葉は、提督の言葉遣いに対する抗議だ。仮にも提督ともあろう者が、配下の者にお疲れ様、では示しがつかない。特にこの二人は、駆逐艦娘や他の艦種の娘達の教官役を担う事もあるから特に煩い。
 
 技術の一番早い習得方法は、熟練者から直接指導してもらう事だ。駆逐艦、軽巡の艦娘達は火力よりも速さと持久力を求められる事が多い為、多くの時間を体力作り等にとられてしまう。
 そのため、戦術面や砲術論が疎かになりがちだ。それを補う為の、熟練者による教官制度があるのだ。
 大井は卓越した雷撃理論を持つ上に、練習艦であった事からか人にそれらを伝える術を心得ていた。比叡も砲術ではあるが、大井と同じである。しかも比叡は砲術だけには収まらず、礼儀作法から語学まで堪能だ。さらに礼儀作
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