44
[1/5]
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
「ふむ、紅茶もなかなかどうして……悪くないな」
「うん、いいじゃない。やるじゃない榛名」
伊勢と日向の姉妹は窓から見える朧月から目を離し、自身の淹れた紅茶に口をつける榛名にそう言った。その言葉に榛名ははにかみつつも微笑み頭を下げた。
彼女達が空に浮かぶ朧月を楽しむその部屋は、榛名と霧島の部屋である。
重巡洋艦娘や戦艦娘の様な数の少ない艦娘達の寮は部屋が余りやすい。その為重巡洋艦娘寮の最上姉妹の下二人、鈴谷と熊野の様に部屋を分ける艦娘は意外に多いのだ。
伊勢は見慣れた榛名と霧島の部屋を眺めた。小物入れ、ベッド、クローゼット、箪笥、テーブル、ベッドの上やクローゼットからはみ出る提督抱き枕×10、天井から吊るされたサンドバッグ×10。伊勢の良く知るいつもの榛名と霧島の部屋であった。
「しかし、霧島はどこへ行ったのだ?」
「……もしかして、気を使わせちゃったとか? だとしたら……申し訳ないわね」
「いいえ、霧島は元々用事だって言ってましたから」
榛名の言うとおり、この部屋のもう一人の主霧島は前から予定していた用事のため部屋を空けているだけである。鳥海と共に、艦隊の頭脳らしく敵を効率よく刈る方法はないかと定期的に検討会を開いているのだ。ちなみに今日の議題は『孫子の兵法書:深海棲艦首折り編』の翻訳をどうするかである。先日某鮫殴り財団から譲り受けた鮫殴り編を解読し終えたので、今度はそれを、と言うわけである。
「そうか、霧島は相変わらずなのだな」
その説明を榛名から受け、日向は頷いた。彼女の視線の先にあるのは天井から吊るされた、程よく使い込まれたサンドバッグ達である。良く見るとそれらのサンドバッグにはサウスだのフランシスコと書かれていた。もしかしなくてもサンドバッグ達の名前だろう。しかしそれはだだの名前だ。どこかで聞いた名前に近い物だが、それになんら意味はない筈である。
そう考えて日向は目をそらしたが、そらした先にはワシントンと書かれたサンドバッグがあった。日向は見なかった事にしてゆっくりと紅茶を嚥下した。
「……その、ごめんなさいね……私の分まで用意してもらって……」
日向のすぐ隣で、弱弱しい声が上がった。
声の主は伊勢姉妹と同じ航空戦艦娘、扶桑である。扶桑は出されたティーカップこそ手にしているが、未だその中身に口をつけていない。戦場に出れば凛とした相を浮かべる扶桑は、反面艤装をまとっていない時は穏やかな相で居る事が多い。が、今扶桑の相にあるのは穏やかというよりも、先ほどの声同様弱弱しい物であった。
それもその筈である。
今榛名と霧島の部屋に集まっている四人の艦娘のうち、三人が呉軍港襲撃の際、浮砲台として最後の最後まで足掻いた者達なのだ。おまけに榛名は純国産戦艦として初の
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ