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桑の言葉を聞き逃すまいと耳に意識を傾けた。
「山城……あの子、提督とはまだ何も無いんじゃないかしら……と……」
言い終えるや、室内に沈黙が舞い降りた。発言者扶桑と、それを聞いた榛名、伊勢、日向が無言でそれぞれ目配せする。
「いや、まさかそんな、山城だって第一艦隊旗艦としてのプライドとか、女としての矜持ってものが……」
「伊勢、扶桑の言葉を否定するには材料が少ない」
「いえ、むしろ材料が多すぎるのかも知れません……」
「えぇ……あの子だから……」
四人は我等が栄光の第一艦隊旗艦の顔を脳裏に描いた。海上を駆ける凛々しい相、提督に誉められて素直に喜ばない姿、自身の薬指にある銀のリングを眺める乙女の顔、五寸釘で藁人形を打ち付ける丑三つ時の白装束姿。
最後だけは事実確認されていない想像上の物であったが、一番山城らしい生き生きした姿であった。
様々な相と、この鎮守府の日常にある山城の行動を当てはめると、扶桑達は皆一斉に頷いた。
あ、これやってへんわ、と。
「あの子、乙女だから……きっと相手から求められないと無理だと思うの……」
「まぁ、その辺はきっと皆そうじゃない? 私もやっぱり提督に求められたい方だし」
女同士の気軽な愚痴である。提督相手では決して言えないよう事でも、同性であれば別だ。ましてや彼女達は気心の知れた戦友でもある。
明日死ぬかも知れない身であるなら、自身の気持ちを誰かに伝え、それを受け継いで欲しいと思う事もあるだろう。同じ男を想う身なら、殊更に。
「私も、抱くよりも抱かれたいな……」
腕を組んでしみじみと呟く日向は、どこから見てもその想いに相応しい乙女だ。そして三人は、黙ったままの榛名に目を向けた。彼女達の視線の先にいたのは、真っ赤な顔の榛名である。
「はい、榛名は大丈夫です!」
「あ、いえ、榛名はもう何も言わない方がいいと思うの……」
「はい、榛名は大丈夫です!」
「榛名、私もちょっと嫌な予感がするから、ちょっと待って」
扶桑と伊勢の言葉も無視して、いや聞こえてすら居ない様子の榛名は、立ち上がって拳を握った。
「はい、榛名は自分から行けるので大丈夫です!」
「カワサキか……」
榛名の宣言の裏で小さく呟いた日向は、ティーカップに残っていた紅茶を飲み干した。何故かそれは苦かった。
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