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珂ちゃんはねー」
「はい」
首をかしげたまま、頬に指を当てて那珂は野分に応じる。
「艦隊のアイドルでしょ?」
「……そうですね」
自称であるが、那珂は艦隊のアイドルだ。何があって艦娘の那珂がそうなるに至ったのか殆どの艦娘は知らないし、野分もまた知らない。那珂もまた、それを語ろうとしていないのだから。
「アイドルって、仕事をしっかりやるモノだと思うのよね、那珂ちゃんは」
「……はい?」
野分の歳相応、少女然とした相に那珂は屈託のない笑顔を見せた。自身の相が那珂にその顔をさせたなどと知らぬ野分を放って、那珂は口を動かし続ける。
「急な仕事、ぜんっぜんOK。難しい仕事? いいじゃないいいじゃない、那珂ちゃんそういうの好きだよー? 求められたから、那珂ちゃんは答えるの! だって那珂ちゃんアイドルだもん!」
那珂の在り方であり、生き方だ。恐らくこの那珂という少女は、すでに艦娘としても少女としても完成している。己の竜骨をしっかりと構成しているのだ。
皮肉なものである。一度は不幸な事故により建造中に解体された艦が、三度生まれて今誰よりも艦娘として、少女として完成している。
「皆を笑顔にしてこそアイドル! どんな時だって笑顔がアイドル! アイドルって仕事が那珂ちゃんだから、那珂ちゃんはアイドルを続けるだけだよー!」
「……す、凄い……ですね?」
野分には理解できない世界である。あるが、しかし野分にも分かる事はある。那珂は現状に不満などなく、この四水戦を嫌っていないという事だ。いや、皆に頼られるという今を受け入れてすらいる。
野分は未だ確立できない自身と、既に何かを確立させている指揮艦との違いに自嘲の笑みを零した。
「そ、れ、にぃー」
そんな野分の前で、那珂は満面の笑みで何やら言い始める。
「那珂ちゃんが色んなお仕事すれば、提督いっぱい笑ってくれるでしょー? 提督は那珂ちゃんの一番最初のファンで、一番大事なファンだもんねー。提督も笑顔、那珂ちゃんも笑顔! あはははは、川内ちゃんみたいな夜戦バカとか神通ちゃんみたいに急に火照っちゃう子に、那珂ちゃん負けないもんねー」
何気に姉妹をディスりつつ自己主張する辺り、いかにもこの鎮守府の艦娘である。ただ、野分は提督云々の部分でまた胸が疼いた。今日は調子でも悪いのかと野分は首をかしげた。
それでも、そこに先ほどまであった自嘲の笑みはない。那珂はそんな野分の相に小さく頷いた。
と、二人の居る廊下に、一つ足音が響いた。何事かと二人が目を向けるより先に、足音の主が声を上げる。
「あぁ那珂、丁度よかった!」
「あれ、川内ちゃん。どーしたの?」
先ほど軽くディスっておきながら、那珂は常の調子で姉に声を
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