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執務室の新人提督
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「そうそう、初霜さんは今第一艦隊で出てるし、護衛に時雨さんを、って。ただの散歩なんだけどねぇ」

 那珂が時雨に目をやると、時雨がぺこりと頭を下げた。それを受けて那珂も嬉しそうな顔で頭を下げ返す。それを眺める提督の目は穏やかで、一人野分だけが黙って立っているだけだ。
 
「そうそう、うちのエースノワッチだよー」
「……野分です」

 提督達の視線を誘って野分の孤立を防ぐ那珂に、野分はなんとも言えない顔で突っ込みを入れた。
 
「野分さん、おはよう」
「……はい、おはようございます提督」
「おはよう、野分」
「おはよう、時雨」

 それぞれ挨拶を交わしていると、どうしたことか時雨が野分へと近づいていた。彼女は野分の横に立つとそこで立ち止まり、提督と那珂の会話をにこにこと眺め始めた。
 が、笑って眺めている場合ではないと野分は時雨に語気を強くして問うた。
 
「時雨は提督の護衛でしょう。離れてどうするんですか」
「那珂ちゃんが提督の傍にいるから、大丈夫だよ」

 常のペースを崩さぬ幸運艦の姿に、野分は大きく息を吐いた。隠すこともないため息である。
 時雨という艦娘は、史実にあって一水戦と四水戦にそれぞれ所属していた。ただし、所属していた時期は違う為、野分にとっては書類上同じ水雷戦隊に所属していた事もあった艦、程度の認識だ。時雨はこの鎮守府の駆逐艦娘のエースの一人、野分はただの駆逐艦娘。それもまた野分が素直に溜息を吐いた理由でもあった。
 
「それにしても、提督と那珂ちゃんは仲がいいね」
「……そうですね」

 沈んでいた野分の思考は時雨の言葉で再び浮き上がり、野分は目の前の二人を見つめた。お互い自然体で語り合い、そこの無理に笑っているような様子は見えない。
 
「提督はね、テンションの高い艦娘――というか人間相手でもそうだと思うけど、そういうのは苦手だって知ってたかい?」
「えぇ、どこかで聞いた気がします」
「那珂ちゃんは、凄いね」

 時雨の素直な那珂への賞賛に野分は少しばかり誇らしくなり、それを馬鹿馬鹿しいと胸中で首を横に振った。ただ、やはり野分は那珂を誇らしく思った。
 
 提督から悪感情で見られている訳ではないが、時雨が言う通りテンションの高い艦娘を提督が苦手としているのは確かだ。だがどうだろう。今野分の前で、その代表的存在でもある那珂は提督と普通に、常の調子で会話を続けている。提督にも無理をした様子はなく、それは飽く迄日常の風景に溶け込んでいた。
 
「那珂ちゃんは、こういうところも怖いよねぇ」
「……怖い、ですか?」

 時雨の、どこか相手を称えたような口調に野分は首をひねった。野分からすれば、那珂の姉である神通や、夜の廊下であったら多分泣くにちがいない山城のほうが怖い。あ
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