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執務室の新人提督
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だと、真面目すぎる野分には知りえぬ事であった。
 
 野分の言の通り、現在の水雷戦隊のあり方は変化している。この鎮守府に在っては、一水戦は提督の護衛と艦隊の護衛、二水戦は従来通りの艦隊の魁及び電撃戦と水上打撃の要、三水戦は敵威力偵察、四水戦は他の水雷戦隊のサポートだ。
 遠征は各水雷戦隊のメンバーが合同で務め、鎮守府近海の警備と制海権守備は各水雷戦隊および他の戦隊の合同でなされる。
 
 野分は、少しばかり不満がある。一から四まである水雷戦隊の中で、彼女の属する、今彼女の目の前にいる那珂が率いる四水戦だけが、やはり地味だ。一水戦は提督を護衛することで鎮守府自体を守っている。二水戦は今の時代も華のまま艶やかだ。三水戦も、本来は第二艦隊の護衛任務が主目的であったが、四水戦同様大きくあり方を変えた。ただし、こちらは四水戦に比べて――いや、他の水雷戦隊と比較しても見劣りしない。
 川内率いる三水戦は海路を確保する任務にあるほか、そこで出会った敵勢力と交戦した後、敵の情報を正しく理解して持ち帰ると言う至難の任務がある。それが例えどれだけ強力な敵であってもだ。おまけに、撤退中敵勢力に鎮守府までの航路を明かさず帰還しなければならない。
 一水戦が盾で、二水戦が矛であるなら、三水戦は車輪である。
 皆、戦場を変えた防具であり武器であり道具だ。
 四水戦だけが、何物でもない。何にもなれていない。提督の為の何かに、なれていないのだ。
 
 ――自分だけが。
 
 野分は知らず四水戦の現状を自身の境遇と重ねてしまっていた。武勲艦、幸運艦として一時は雪風、時雨とも並び称された艦でありながら、彼女は数ある武勲、幸運、功労艦の中で埋没してしまっている。四水戦には間違いなく華があった。矛であった。誰もを魅了し、何もかもを貫いたのだ。彼女はその中にあって確りと意味を持っていた筈なのだ。
 人としての心の負に囚われた野分は、艦娘になってからの生真面目な性格もあってか、一度それに足を絡め取られると中々に抜け出せないで居た。
 しかし、野分の足を絡み取っていた何かは突如消え去った。
 
「あ、提督ー」
「お、那珂ちゃん」

 彼女達以外誰も居なかった廊下に、二つの人影が追加されたのだ。一人は那珂が口にした通り提督であり、もう一人は提督の背後に佇む時雨だ。彼女はまるで常の初霜の様に、静かに提督の傍にいる。それを見て、野分の胸は小さな痛みを訴えた。
 
 ――嫉妬だ。野分は、馬鹿だ。
 
 そう信じた。そこに居ない自分と、そこに在る時雨に野分は嫉妬したのだと信じた。信じるしかなかった。彼女の心は未成熟なのだから。
 
「提督ー、こんなところでどうしたのー?」
「散歩だよ。大淀さんが気分転換にどうぞって」
「あぁ、それで時雨が護衛なんだー?」

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