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鼻歌交じりで、おまけに体でリズムまで取って歩く目の前の上司を見ながら、野分は確りとした足取りで歩いていた。ご機嫌に歩く彼女の上司――那珂と、軍属らしく一部の隙もなく歩く野分の姿は対照的だ。ただ、現在彼女達が歩く鎮守府の廊下には傍目が存在していない。
もっとも誰かが二人を目にしても、何も思わずすれ違いざまに会釈したり軽く挨拶をする程度だっただろう。皆理解しているのだ。彼女達はそういった艦娘であると。
「那珂さん、今日の訓練メニューはどうしますか?」
「那珂ちゃんだよー、さんはいらないよー?」
「……いえ、その上司を、ちゃん、と呼ぶわけには」
「もー、野分は硬いぞー、そのままだと、自分不器用ですから、とか言い出すようになっちゃうよー」
態々振り返り不器用云々の所で、きっちりと眉を寄せてしかめっ面を作る辺りが実に那珂らしい、と思いながらも野分は那珂の言葉に頷かなかった。なにせこの彼女、普段から妹に当たる艦娘からノワッチなどという不本意な名で呼ばれている為か、人をあだ名で呼ぶ事が不得意なのだ。
しかもそれが上司となれば尚更である。
「んー……ま、それが野分のいいとこでもあるからねー。でも、いつまでもそれじゃ那珂ちゃんやだよー?」
「……善処します」
曖昧な返事の野分にも、那珂は微笑んで身を翻して歩いてく。軽巡艦娘としては平均的な身長の、その那珂の背を見つめたまま野分は小さく息を吐いた。
彼女の聞きたかったこと、つまり今日の訓練メニューの話が流れてしまっているからだ。それを口にしようとした野分は、しかし那珂の声によって遮られた。
「今日はねー、お休みにしようかー」
「え、休み、ですか?」
「うん、那珂ちゃんそんな気分なんだー」
「き、気分一つで休暇なんて……っ」
那珂の能天気な言葉に、野分は声を荒げた。
野分が所属し、那珂が指揮を執る第四水雷戦隊は、他の水雷戦隊に比べれば酷く地味だ。
四水戦は第二艦隊の魁……つまり二水戦と同じ立場にある水雷戦隊であったが、旧海軍時代の、つまり彼女達が艦であった頃は不遇であった。人は華の二水戦と称すれど、四水戦を華とは称えていない。主戦場を駆けた第一艦隊に比べれば、それは仕方ないことで在ったかもしれないが、不遇に過ぎたのもまた事実だ。
ただし、水雷戦隊としては完全に二水戦に名で負けているが、輩出した武勲艦は他の水雷戦隊に決して負けては居ない。野分、夕立、江風、時雨、と意外に多いのである。
「……確かに、今の私たちの戦隊のあり方は変わりましたけど、志まで変えては」
「ノワッチは本当に硬いぞー」
「ノワッチじゃありませんっ」
冷静になろうとした野分は、しかし返って来た那珂の言葉にかき乱された。そういう所がまた那珂を喜ばせているの
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