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執務室の新人提督
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 手に在る書類を乱暴に机へ放り投げ、彼――少年提督は自身の艦娘である大淀を鋭い眼差しで射抜いた。睨み付けられた大淀はただ常の通り佇むだけで、そこに怯えや恐れは見えない。
 常から穏やかな少年提督に睨み付けられるのも仕方がないことであり、怯懦と応じる必要も無い事であった。今少年提督の手から放された書類は、ただ大淀の仕事の一つでしか無かったのだから。
 
「大淀、これはなんだ」
「提督、必要なことです」

 相同様、硬い声を上げる少年提督に大淀は常の涼やかな声で応じる。それがまた歳若い少年提督の心を逆なでしていることに大淀は気付いていたが、彼女まで感情的になれば今この執務室で交わされている会話は鋭いだけの物になってしまう。大淀はそれをこそ恐れた。
 
「あの鎮守府は近すぎるのです。今後、本当に提督の友人に相応しい方であるかどうか、我々は知らねばなりません」
「大淀」
「……貴方に万が一でもあれば……私たちは……」

 大淀の崩れぬ相が徐々に弱さを彩り始めた。自身の痛みには耐えられる艦娘が、提督の"もしも"を想う余り見せた脆い少女の相に、少年提督は言うべき言葉を失った。
 彼はゆっくりと目を落とし、先ほど乱雑に扱った書類を手に取り目を通した。そこにあるのは最近交友を持つに至った同期の提督の詳細が記されていた。
 名前、年齢、性別、出身地、生い立ち、士官学校での成績、素行、教官たちの所感、提督としてのデータ。様々な、それこそ人物を知る為に図る素材がそこに転がっている。だからこそ、少年提督はやはりそれを乱暴に扱って再び放り投げた。歳若い彼の心は青臭い正義心に忠実であった。
 しかしその青臭さを彼は瞭と自覚していた。自覚して尚青臭いと言うのなら、それはもう彼の生涯に渡る友である。
 
「大淀、気持ちは嬉しい。けれど、僕はあの人をこうやって」

 そう言って、彼は机の上にある書類を指で弾いた。
 
「こうやって紙面でみるべき人じゃないと思う。僕らは、もっと友人を目で見て心で感じるべきだ」
「裏切られたらどうなさるのですか」

 大淀の心底から少年提督を気遣った言葉に、少年提督は苦笑を添えて首を横に振った。
 
「あの人は、多分僕をこんな風に調べては無いよ、大淀。先に裏切ったのは今の……こんな事をしてしまった僕らだ。後で裏切られたからって、恨んじゃいけない」
「調べたのは私です!」

 声を荒げた大淀に、少年提督は微笑んだ。その笑みは、大淀の心に自然と入ってきた。
 
「大淀は、僕の艦娘だ」

 そう笑って返す少年提督の相は、驚くほど彼の友人の笑顔と似ていた。無論、二人には分からぬことであるが。
 
 俯いて黙った大淀の肩を見つめながら、少年提督は脳内に入ってしまった情報を思い出した。同じ学科、提督科とい
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