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うやつなんだな」
「エミール乙」
秋雲の趣味は、イラストと漫画である。この港に来たのもそれが煮詰まった結果である。これはこの鎮守府の秋雲だけの特殊な趣味ではなく、秋雲という駆逐艦娘は全員そうなのだ。全員絵描きなのである。ただ、提督は知らないが各鎮守府の秋雲のジャンルは違っている。熱血少年漫画を描く秋雲も居れば、恋愛物の少女漫画を描く秋雲もいる。そして提督の秋雲はと言えば、
「で、提督はそろそろ誰かの着替えとか覗けたの?」
「僕が物理的にも社会的にも死ぬんですがそれは」
こてこてのラブコメを描く。それはもう愛らしい絵で、だ。提督も目にした事はあるが、愛らしい少女が愛らしい少女達のラブコメ模様を描いているという現実に眩暈を覚えて早々に切り上げた経験がある。
「えー、提督今の状況理解してよもー、身をはってネタになってくんないと、秋雲こまるー」
「じゃあ今度秋雲さんが着替えてる時間くらいに突撃するわ」
「えー……浜風とか浦風どうよ? どの辺りの時間とか教えようか?」
「姉を売る妹」
「たまげたなぁ」
提督としては姉達を簡単に売ろうとした秋雲にたまげているが、秋雲は提督に未だ引っ付いたまま、いっこうに釣れない竿を眺めながら首を傾げた。
「そーいやさ、提督提督てーいーとーくー」
「はいはい、秋雲さん秋雲さんあーきーぐーもーさーん」
「提督は秋雲達みたいな特典ないの?」
「はい?」
「いや、だから転生特典」
「……あぁ」
秋雲の言わんとする事を理解して提督は肩を落とした。提督達はこの世界に鎮守府ごと移ってきたという状態だ。が、それは艦娘達の認識で、提督は更にゲームの中の艦娘達がしっかりと日常を過ごしていたという状況からの平行世界らしき場所への転移である。混乱は提督の方が一層酷かったわけだが、それももう終えた話だ。彼はその辺りは特に触れず暫し黙り込んだ。
その沈黙を嫌ったのか、それとも気を回したのか、秋雲は提督を更に強く抱きしめて口を開いた。
「いやー、秋雲達ってば強くてニューゲームの無双だぜー? 提督もそーゆーのなんかなーい? ほらステータス見えるとか、実はSクラスの実力があるけどBランクくらいで満足してる的な」
「提督にはそーゆーのないなー。僕は僕のままってもんさ」
「えー……なんか欲しくはなかった?」
秋雲の声は、意外なことに真面目である。真剣な相であるのか、そうでないのか。後ろに目の無い提督には分からぬ状態だ。ただ、真剣な声にふざけて返す事は提督もしなかった。
「いや、一個あるかな」
「お、本当?」
嬉しそうな秋雲の声に、提督は我知らず微笑んだ。彼を思い彩る秋雲の相が喜びであった事に、彼もまた喜んだのである。
「秋雲達が僕のチートだなぁと」
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