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空いている港の一つに、今一つの影があった。
この港が設置された鎮守府の主、提督である。彼は持っていた小さな折り畳み椅子を広げて腰を下ろし、もう一つ持っていた釣竿を適当に振った。
海面で揺れる浮きを眺めてから、提督は空へと目を上げた。まばらな雲と、夏ほどには照っていない太陽がそこにある。海面から吹く少しばかり冷たい風に提督は、コートを羽織ってくれば良かった、と思いながら肩をすくめようとして――
「お、提督ー、何してるのさー?」
出来なかった。突如背後から抱きしめられたからだ。提督を後ろからハグする少女は自身の言葉に首をひねったあと、数度軽く咳を払ってにんまりと口を開いた。
「ねーねー、なに、なにしてんの? ねぇ何してんの? なに、なに、なに、ねぇ?」
「なんで君たちは姉妹からセリフを取るの?」
提督は振り返りもしないまま自身に抱きつく少女に声をかけ、あ、と零してから未だ離れる素振りも見せない少女に問うた。
「君、本当にどっちなんだろう?」
「さぁ、秋雲的にはどっちもでいいかなぁって思うけど?」
秋雲――駆逐艦娘陽炎型19番艦、一応の陽炎型の末っ子となっている少女は自身の事であるのにどうでもよさげにそう言った。型は陽炎だが彼女のまとう服装は夕雲型姉妹達と同じ物である。
一瞥しただけならば間違いなく夕雲型であるが、話してみると如何にも個性的なところが陽炎型姉妹の様でもある。史実でもどちらかはっきりしなかった彼女であるが、艦娘となった現在もやはりなんとも言えない立場であった。が、当人はそんな事どこ吹く風である。
「で本当に何してるの?」
「いや、釣りを少々」
「どのスレ?」
「ちげーます、ちげーますですー」
釣りは釣りでも釣り違いである。秋雲のそれはネットという電子の海で嗜む釣りであって、今提督がやっているのは現実の海での釣りだ。
提督にとってもっとも相性が良い艦娘というのは数人いるが、この秋雲はその数人の一人である。なにせ趣味の方向が似通っているのだ。インドア派で少しばかり濃い部分を持つ提督にとっては、話が通じる存在と言うのはそれだけで砂漠のオアシスに等しいのだ。
「秋雲さんはどうしてこんなところに?」
鎮守府の主である提督が言うように、この港は"こんなところ"だ。資源が十分にあるこの鎮守府では遠征組が全員回転する必要は無い。せいぜいバケツ集めと減った分の資源を補う遠征だけだ。となると、どうしても空きがちな港が一つや二つは出て来る。この鎮守府の出撃港は十近くあるのだから尚更だ。提督にとっては、だからこそ意外であった。秋雲も提督と並ぶほどのインドア派であるというのに、港にいるのだから。
「それ、提督が言っていいのかにゃー?」
「……あぁ」
秋雲
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