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えてきた。それは他の鎮守府の龍驤ではなく、この鎮守府の、あの提督の龍驤だからこそ出来た偉業だ。
彼女は小さく横に頭を振った。艦としての戦い方は嫌というほど覚えた体も、未だ乙女としての心は未熟だ。提督を抱きしめた時、胸に宿ったのは温もりで、山城に取られたときに感じたのは純粋すぎる無垢な喪失だ。自身の心の一部さえ消し飛んだと龍驤が錯覚したほどの。そして山城の腕の中で、自身の腕の中にあった時よりも朱色に染まった提督の顔を見て思ったのは、刺すような痛みだ。
針で刺された程度の痛みは、しかし今も龍驤の心を苛み続けている。
「目がええんも、良し悪しやなぁ」
提督が幸せなら、それで龍驤は満足だ。自身の傍で提督があり続けているだけで満足できた筈だった。艦として納得した部分を、今日乙女としての龍驤が納得行かぬと声高に叫んだ。
山城に対して、龍驤が悪く思う事は無い。山城は同じ第一艦隊の旗艦としてなんら問題の無い立派な艦娘であり、あれはあれで提督と似合いの乙女だ。硬い山城と軟い提督である。鎮守府のトップとその妻が円満に近い形に収まっているのなら、それは理想的なものだ。
ただ、龍驤はふと思ってしまうのだ。思うようになってしまったのだ。
「べつに提督を幸せにするん、うちでもええやんなー?」
競いあいだ。山城だけが相手ではない。競争相手は多いだろう。その結果提督が幸せになれるのなら、これは龍驤にとって必要な事であった。彼女は提督の龍驤だ。提督の為の龍驤だ。
「おし、明日鳳翔さんにも相談してみるかー!」
腕を伸ばして彼女は叫んだ。夜の廊下に不似合いなそれは、深海に溶け込む月の明かりの様に、人知れず鎮守府の波間に消えていった。
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