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下さい……!」
「ま、ちょい長い休憩やったかもね」
再び提督の腕を取り出した山城を見てから、龍驤はソファーから立ち上がった。そのまま彼女は執務室備え付けの小さな冷蔵庫へ向かい、そこからジュースを取り出した。
彼女自身喉が乾いていたし、他の二人のコップもそろそろ中身が無くなる頃だったからだ。
そしてそれ以上に、今はソファーから離れておきたかった。
龍驤は見てしまったのだから。
暗い廊下をゆっくりと歩いてく。そこそこ深い夜の世界は、どこか深海じみて彼女には少々不気味に思えた。特に執務室であんなゲームを見た後では、それなりに思う事は多い。あの影から何か出てこないか、あの角から誰かが――等と思ってしまうのは、乙女の心の多感さだろう。
艦時代は戦えばよかったが、少女の体を得てからの彼女は自身でも呆れるほどに複雑だ。
と、彼女は――龍驤は突然足を止めて視線の先、廊下の角へ目を向けて口を開いた。
「安心しぃ、確り山城が寮に戻ったん確認したから」
独り言にしては大きな声だ。だが、これは独り言ではない。事実、暗い夜の廊下の角から、影が一つ伸びた。月明かりに照らせれたその姿は、夜が良く似合う少女、大井であった。
「ごめんなさい、龍驤さん……こんな事をお願いしてしまって」
「まぁ、それが皆の為でもあるやろうしね」
頭を下げる大井に、龍驤は肩をすくめて返した。龍驤が言う通り、皆の為である。流石に山城が第一旗艦とは言え執務室にそう何度も泊り込めば一部艦娘達のストレスは溜まってしまうし、かといって山城に執務室に行くなとは言えない。必要なのは第三者による線引きだ。
ただ、この鎮守府で第三者、にあたる人物はいない。
結果、頼られやすい龍驤が大井の話を聞いて早めに動いたのだ。こじれる前に、と。
「ま、自分ももう少ししてから行きや? まだ提督眠れてへんよ?」
「はい、そうします」
普段提督と語ることが少なく、その癖寝ている提督に今日在った事等を一人報告している大井の横を通り過ぎて、龍驤は歩いていく。その背に大井が再び頭を下げている気配を感じ、龍驤は振り返らずに手をひらひらと振って応じた。
再び一人夜の廊下を歩きながら、龍驤は胸中でため息をついた。
――あぁ、損な性分や。
他の鎮守府ならどうだっただろう、他の提督が提督ならどうだっただろう、もっと後に配属されていたらどうだっただろう、彼女はそんな事を考えた。
しかしそれは余りに無意味だ。彼女はここに居る彼女であるからこそ、提督の龍驤だ。
古参であり猛者であり武勲艦の中の武勲艦、殊勲艦である。軽空母というどちらかといえば非力な艦種でありながら前線を支え、多くの艦娘達を支え、提督と鎮守府を支
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