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「ふむ……よし、これは大丈夫だな」
自室兼職場の執務室で判子をついて、提督は自身の肩を軽く肩をたたいた。手元にあった書類を机の隅に追いやり、また新しい書類を手にして目を通し……
「初霜さん初霜さん」
「はい、なんですか?」
秘書艦用の机で書類を整理していた初霜を手招きつきで呼んだ。提督は手に在る書類に目を落としたまま、首をかしげて提督の次の言葉を待つどこか子犬的な初霜に問うた。
「えーっと、食堂からの話って、何か聞いてるかな?」
「食堂、ですか?」
傾げていた首を更に傾げ、疑問符を浮かべる初霜に、提督は手に在る書類を渡した。受け取った初霜は提督に目礼してから書類に目を走らせた。
大本営やこの鎮守府の事務方から回された書類でないことは開始数行で初霜も理解したが、読み終えてから彼女はまた首を傾げてしまった。
「提督、これは、なんでしょう?」
「特定資源の過剰供給、かなぁー……」
二人は一枚の書類、今は初霜の手に在るそれを見つめた。
「さて……これ、どうしましょうか?」
頬に手をあて、間宮食堂の主間宮は眼前に並ぶ――いや、大量に在るそれを眺めた。彼女が今居るのは間宮食堂の厨房の地下にある共用貯蔵庫だ。食堂と居酒屋と酒保の各種材料の長期保存を目的とした場所であって、決して提督を拉致監禁する為の地下室ではない。
地下の貯蔵庫は大層寒く、間宮も常の着物の上にコートを羽織っていた。そしてそれは、
「どういたしましょうか……」
間宮の隣にいる鳳翔も同様であった。彼女達が羽織っているのは海軍士官服の冬着用の黒いコートだ。二人とも穏やかな女性だというのに、その姿に違和感はない。無骨な筈のコートでありながら、それを違和感なくまとう事の出来る彼女達は、姿形に関係なく軍属という事だろう。
「一応、提督に書類で相談をしてみたのですけれど……」
「提督に、ですか?」
「はい……やはり、お忙しいところを邪魔しては、駄目でしたでしょうか……?」
ここに居ない提督に向かって頭を下げだしそうな間宮の様子に、鳳翔はにこりと微笑んだ。間宮の冷たい指先を手に握り、温めるように自身の手で包み鳳翔は間宮の目を確りと見つめて口を開いた。
「あの方はそんな人ではありませんよ。きっと、きっと間宮さんを救ってくれます」
「鳳翔さん……」
目じりに涙を浮かべ感動する間宮に、鳳翔は何も返さずただ頷いた。
と、友情に震える二人の耳に扉を開ける音が届いた。ついで、足音が二つ地下室に響きだした。食堂の貯蔵地下室となれば誰でも入ることは可能だが、実際に入ってくるものは限られている。間宮や鳳翔、食堂のスタッフとなっている艦娘――例えば現在厨房で仕込みを行って
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