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執務室の新人提督
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い」

 目を伏せて頷く初霜の肩を軽くたたいて、提督は微笑んだ。気にするなと伝えたのだ。
 人間も艦娘も同じだ、とはよくいうがこれもまた同じ事である。年若い人間は牛や豚を好み、中年辺りから鳥や魚を好むようになる。消化能力の低下から、脂の少ない物を摂る様になるからだ。艦娘、という存在にもある程度歳の設定がなされている様で、駆逐艦娘は特に幼く若い。
 当然、そうなると彼女達が好むのは栄養を多く含んだ牛や豚となるのだ。
 
「しかし……どうしたものかねぇ、これは」

 提督は目の前にある秋刀魚の山を眺めて小さく呟いた。彼の脳裏には何故か泣いている北方棲姫の幼い姿があった。いつぞや、まだ提督がただの会社員で在った頃にやった菱餅イベントだ。
 ただ、大本営から秋刀魚を集めろという指示はきていないし、暁型の末娘からも、集めるのです! とは言われていない。
 あれは飽く迄ゲームであって、現状は現実なのだから何かが違うのかもしれない、と提督は考えため息をついた。
 
「よし、ある程度は僕でどうにかしましょうかねー」
「ほ、本当ですか?」

 間宮の輝く瞳に頷き返し、提督は士官服のポケットから携帯を取り出した。スマホでないのは、勤務時間中に何かの間違いでゲームなどをしない様にと自戒した為である。
 いったいぜんたいどうするのだ、と提督を見つめる三人の視線の中で、彼は最近登録したばかりの番号にあわせてボタンを押した。
 
「……あ、もしもし、どうも」
『あ、あぁー……お電話ありがとう御座います。どうしたんですか、携帯に直接なんて。何か内々の事でしょうか?』
「あぁいえ、そんな大それたもんじゃないんですが、ちょっと変な事お聞きしても?」
『えっと、はい、なんでしょう?』
「今、秋刀魚とか食べたいですか?」
『……え?』
「秋刀魚とかめっさ食べたいとかありませんか?」
『いえ、嫌いじゃありませんけれど、その?』
「いえ、ちょっとうちの鎮守府で凄い余ってまして、それならお隣で近いそっちに冷蔵保管して上げちゃおうかなって思いまして?」
『……あぁー、ちょっとまって下さいね?』
「はいはい」
 
 と、提督は三人の顔を見回して小さく肩をすくめた。三人とも納得した顔である。友誼を深め、食糧も無駄にならない。妙手とは言えない普通の手であるが、凡庸な提督らしい普通過ぎる解決手段に、皆なんとなく笑みを浮かべた。
 さて、提督の手に在る携帯である。そこで保留になるのかと提督は思っていたのだが、どうにもそのままのようだ。しかも少年提督は手で塞いでもいない様子だ。つまりどうなるかと言えば。
 
『大淀ー、秋刀魚どうかなって』
『ど、どうかなって、とは? ご実家からですか?』
『ううん、ほらあっちの――うわっ』
『はいはい提督、おや
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