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言いよどむ瑞穂は、ちらりと江風をみてまた悩みだす。その仕草に江風は胡坐をかいたまま腕を組み、鼻からフンス、と息を吐いて胸を張った。
「いや、もう言い切ってくれよ。生殺しとかちょっとスッとしねぇし。大丈夫だ。もう何がきたっておどろかねぇよ」
「あの、これは本当に秘密ですよ?」
「おう」
瑞穂は江風に近づき、耳元で囁いた。
「摩耶さん、提督の好みとか……良く聞きに来られます」
「……」
江風はもう何も口にせず大きく首を横に振った。また提督だ。誰も彼も提督だ。悪い人物だとは江風も思わない。しかし、どうにも分からない。歴戦の艦娘達が熱を上げる相手として見るには、提督は凡庸すぎた。江風なら、もっと颯爽とした快男児がいい。指揮能力が高く、好戦的ならなお一層良しだ。ただし、それは艦として求める指揮者の理想像だ。彼女はまだ娘の部分が構成しきれていないので、理想の異性像は作れないらしい。
「もうなんだ、姉貴達の趣味がわかンねー」
肩を落として零す江風と、それを見て困ったそうで微笑む瑞穂の耳に音が届いた。食堂の扉を開ける音である。が、今現在ここに主である間宮は居ないし、扉には準備中の札をかけていた筈だ。さて、では誰が来たのだ、と二人は扉を開けた人物へ目をやった。
「あぁ、やっぱりここに居たんだね」
二人の視線の先に居たのは、江風の姉であり駆逐艦娘のエースの一人、時雨であった。話していた内容が内容だけに、江風は喉を数回鳴らして調子を戻そうとしていた。瑞穂は黙って微笑むだけだ。若干、その相につらそうな物も見えるが。
二人の様子に首をひねりながらも、時雨は足を進めて二人へと近寄ってく。
「あぁ、瑞穂」
「はい?」
時雨に話しかけられたからか、瑞穂は僅かに身を硬くして時雨の言葉を待つ。
「提督のお昼ご飯、間宮さんに任されたんだって?」
「はい……やってみなさい、と間宮さんが」
少ない機会であるが、提督が食堂に来た場合間宮が料理を出していた。どれほど忙しくともだ。だというのに、今日に限って瑞穂が担当を任されたのである。現状、出せる力は全て出し切ったと瑞穂は考えているが、作り手の考えを食べる人に押し付けるわけにはいかない。ゆえに、彼女は提督に何も言わなかったのだが……
「いつもと味が違うから、多分瑞穂さんだなぁ、って提督が言ってたよ」
「……そう、ですか……味が」
時雨の言葉を悪い方に捉えたのだろう。瑞穂は睫毛を震わせて俯いた。間宮に比肩するほどの物は作れないと彼女自身理解していたが、それでも悲しい物は悲しいのだ。
「おいしかったからまたお願いってさ」
「あ――……はい、次はもっと頑張ります」
一転、ほっとした相で胸を撫で下ろす瑞穂に、時雨も笑
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