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執務室の新人提督
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口論?」
「……はい。その、私にだって作りたい玉子焼きがありますから」

 消え入りそうな声で返す瑞穂に、江風は苦い相で唇をゆがめた。江風と瑞穂は性格的に合わない。火と水、いや、名前からすれば風と水だろう。常に動き回り炎を煽るのが風なら、水は一所に留まり火を消す存在だ。ただ、共通点はある。互いに流れるというところだ。

「……そういや、リベ公は?」
「リベッチオさんでしたら、清霜さんと戦艦娘寮に遊びに行くと言っていましたよ」
「はー……あっちは順調に馴染ンでやがンなぁー」

 同じ時期に鎮守府に配属された江風と同じ駆逐艦娘はすでに無二の友人を作ったようである。ここにいない速吸にしても空母連中によくしてもらっているし、カウンター向こうに居る瑞穂も千歳や、これまた空母連中、更には食堂組や料理上手連中と仲がいい。
 それに比べて、江風は少々躓いている状態だ。
 姉妹との仲が悪いわけではないし、遠征や第一艦隊に編成されて海上にも出ている。ただ、その日常は艦娘として充実していても、江風という少女として充実していない。
 
「調理なぁー……」

 かといって、江風は瑞穂の様に調理場が似合う少女ではないと自分でも理解している。艦娘としてはすぐ確立できた江風ではあるが、少女としてはまだ不安定だ。自我はあるが自己はこれであると主張する物がないのである。
 
「自分とこの海軍の艦じゃないリベ公に、なンか先に行かれてるみたいで、おさまりが悪いンだけども、だからって似合わない事すンのもなー……」
「調理が、ですか?」
「似合うと思うか?」
「……」

 江風の言葉に、瑞穂は顎に手を当てて少し俯いた。瑞穂は周囲をきょろきょろと見回し、他に人影がない事を確かめてから小さく声を出した。
 
「摩耶さん……実は料理お上手なんですよ?」
「うっそだろ」

 江風は目をむいて驚いた。重巡洋艦娘摩耶と言えば、この鎮守府の対空の要であり、実に面倒見のいい姉御肌の艦娘だ。江風にとってはまさに尊敬に値する艦娘である。それがまさか、と思い江風はじっと瑞穂をねめつけた。だが、瑞穂は怯えもせず目も逸らさない。となれば、それはつまり。
 
「えぇー……マジかよ」
「ここだけの話にして下さい。間宮さんや伊良湖さん、他にも料理上手な艦娘達にはよく相談されていますよ?」
「相談って」
「から揚げの美味しい揚げ方とか、スパゲティーの茹で方とか」
「ンなもん、どっちも入れて待っとけばいい奴じゃないか?」
「違いますよ、江風さん。シンプルな物ほど、奥が深いんです」
「あぁー……確かにそンなモンだよなー」

 瑞穂は料理の事を語ったが、江風の脳裏にあるのは戦闘技術だ。砲雷撃戦一つでもただ放てばいいという訳ではないからだ。
 
「あとは……」


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