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鈴は対空対潜を得意とする支援上手だ。自然、江風の様な前線勤務希望の艦娘から見れば実に華やかな姉妹達である。
だというのに、そんな姉妹達が提督一人を囲んで、ただの乙女の様に顔をほころばせてころころと笑っていたのだ。つい先ほどまで。
それが、江風には分からない。
「でも、皆凄いですよ?」
「……そうなンだよなぁー」
洗い終えた皿を水きりしながら瑞穂が微笑み、江風がうな垂れた。瑞穂が言う通り、江風達が配属された鎮守府の艦娘達は、相当に錬度が高い。少女の体を持って現世に現れたばかりの二人は他の鎮守府が如何な物であるか判然とはしていないが、それでも演習や遠征などですれ違う他の鎮守府の艦娘を見れば分かるのだ。
動きが違うし、凄みが違う。江風自身、艦娘なりたての存在であるので己の竜骨をまだ確固たる物と出来てはないが、艦時代の彼女の艦歴が、この鎮守府に居る先任達の凄みを感じさせるのだ。
そんな先任達が、海の男らしからぬ提督へ花に集まる蝶の様に、或いは蜂の様に寄っていくのである。江風からしたら、もうまったくの意味不明だ。
ただし、こんな事は他では――瑞穂達以外には江風も漏らさない。
「川内さンもさ、時雨の姉貴もさ、超つえーさ。でもさ、ちょっとでも今みたいな事言うと、顔では笑ってるけどスゲー目で見るンだぜ?」
尊敬に値する先任艦娘達と姉の目を思い出したのか、江風は自身を抱いてぶるりと身を震わせた。相当に恐ろしかったのだろう。そんな江風を微笑んで眺める瑞穂に、江風は尖った口を向けた。
「瑞穂は、そういうミスないのかよ?」
「そうですねー……私は、玉子巻きの作り方で瑞鳳さんと軽く口論したくらいで」
「なにそれ」
おおよそ艦娘が口論する問題ではない。だが、こうだからこそ瑞穂が事務方に移ったとも言える。彼女は江風から見ても戦闘向きの性格ではないし、また艤装も彼女に合わせてか戦闘向けではない。食堂で玉子焼きの口論をしているほうが似合う艦娘では、確かにあった。
「私が提督にと玉子焼きを作ろうとしていると、まず玉子のかくはんからして違うと言われまして……」
「かくはん?」
「混ぜ方です」
艦娘になって間もない江風でも、艤装をまとった海上戦闘はすでにお手の物だ。感覚で物事を掴むタイプである江風は、自身が少女の体である事に特に悩みもないからだろう。まず間違いなく、この少女は戦闘において今後真価を発揮していく艦娘だ。艦娘としては問題ない。
そのくせこの江風という存在は、少女としてはポンコツだった。家事一般はさっぱりで、調理などはもう本当にさっぱりだ。食う専門で作るのはまったくなのである。
「その後も、焼き方はこうで、とか、提督はもっと柔らかいほうが好みだから、と言われまして……それで、その」
「
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