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竜門珠希は『普通』になれない
第1章:ぼっちな姫は逆ハーレムの女王になる
本当に賢いヤツらの生き方
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る珠希だったが、実際、周囲の目を惹くレベルの美少女から声援を送られて喜ばない男がいるのだろうか。
 だが実際のところ、自らが今やるべきこと、進む方向を見つけ、確実にテンションを上げていた星河は大きく息を吐き出すと、数メートル先に見える改札に向かって駆け出した。

「あ! おい星河。お前どこに……」
「少しでも早く帰るんだよ、昴。忘れてるところがあるかもしれないでしょ?」
「……ったく、星河の奴め。急がなくてもすぐ電車来るっつーの」
「それだけ張り切ってるんでしょ。たぶん」
「けしかけたくせに何ぬかしてやがる」
「言ったはずだよ。あたしは責任は取らない、って」

 星河に対して(あくまで合法の)ドーピングしておきながら、それ以降の制御と始末をどうするつもりかと尋ねる昴に、珠希は茶目っ気たっぷりにウインクを返す。
 そんな異性慣れしていない男をあらぬ方向へと誘導する魅力すらある珠希のウインクにはさすがの昴ももはや殺意も怒る気も湧かなかった。その代わり、魅せられ惚れ込むこともなかったが、昴の脳裏には一人、記憶から呼び覚まされた人影が映り込んでいた。

「――も、お前みたいな人だったんだろうな……」
「ん? 何か言った?」

 思わず記憶の中に封印していたはずの人の影を口に出してしまっていた昴だったが、このハーレム系ラブコメラノベ主人公のごとき鈍感難聴ぶりを発揮した珠希の耳には届いていなかったようで、ほっと胸を撫で下ろし、誤魔化しに走る。

「いいや、お前の説教の仕方がお袋臭いと思っただけだ」
「まあ、我が家の家事全般やってるのあたしだし……てか今のは説教じゃないし」
「言い方が悪かったな。なんつーか、お前は星河を操るのが上手いな」
「それは褒め言葉で使ってる?」
「いい意味でな」
「ふーん……」

 滅多にプラス方向に評価しない昴からの好評価に、珠希は興味なさげに昴から視線を切りながらもまんざらでもない表情を浮かべる。

「すーばーるーっ! 早く来ないと置いてくよーっ!?」

「ほら呼んでるよ? 大切な幼なじみくんが」
「……ああ。じゃあ俺も帰るわ」
「うん。それじゃね」
「ああ。……また明日な」

 早くも改札を抜けていた星河と、星河に呼ばれてその後を追いかける昴の背中に小さく手を振り、二人の姿が見えなくなると珠希も珠希で改めて帰路に就くことにする。
 高校までも同じ学校を選んでくれるような、ずっと一緒の幼なじみなんてのがいてくれたら少しは自分にも友達ができていたんだろうかと思いながら。

 すると不意に、背後から名前を呼ばれた。

「あれ? そこにいんのもしかして珠希じゃね?」


 
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