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布団を敷いて提督は自身の肩を叩いた。壁にかけてある時計へ目をやり、今から布団に潜り込むのは少しばかり早いか、と彼は思い部屋の隅に置いてあるダンボールへ近づいていく。
中にある本や携帯ゲームで時間を潰そうとしているのだ。ダンボールを空け、中に手を入れた提督の耳に一つの音が届いた。
控えめな、本当に弱弱しいノックである。
さて、このようなノックはいったい誰だろうか、と首をひねった提督はダンボールを閉じて口を開いた。
「どうぞー」
ゆっくりと扉を開け、夜の執務室に入ってきたのは山城であった。
先ほどのノックと山城が結びつかない提督は山城をじっと見つめてしまった。その視線から逃れるように、山城は身をよじりか細い声を上げた。何もかもがらしからぬ調子である。
「あ、あの……提督?」
「……はい?」
過日、片桐中尉と交わした会話が提督の脳裏を過ぎった。提督にとって山城は事実上の嫁――妻である。そう考えてしまうと、こうして夜の執務室で二人向き合うのは提督にとって少しばかり気恥ずかしいのである。自然、彼の声は常の物ではない硬い物になってしまった。
それを感じ取った山城は、提督の目を見つめてまた弱弱しく声を上げる。
「あの……何か予定でもありますか?」
「いや、もう寝るだけだったんだけど……」
「……ごめんなさい、失礼いたし――」
「あぁいや、流石にちょっと早いかなって思ってたから、大丈夫」
退室しようとする山城を引きとめ、提督は何度か咳を払って喉の調子を常の物へ戻そうとした。
「あー……で、山城さん、僕に何か用で?」
「あの……すいません、ちょっと頼みたい事が……」
山城の返事に、提督は目を瞬かせた。山城が提督に用事、というのは少し珍しい。大抵の事は扶桑と共に、もしくは西村艦隊の艦娘達と済ませるのが山城だ。
さてどんな難題がくるのだ、と身構えた提督の前で、山城は着物の袖から一つの物を取り出してぷるぷると震えながらそれを提督へと良く見えるように突き出してきた。
提督がまじまじとそれを見る。彼の目に映るそれは、普通のDVDケースである。ただし、パッケージはなんというか、こう、仄暗い。
「い、一緒に見てください……!」
「ひ、ひっ……!」
そう零して自身の腕にしがみつく山城の女性らしい香りと柔らかさを感じつつ、提督はダンボールの中から出したDVDプレイヤーと、それが接続されたテレビの画面を半眼で眺めていた。
そこに映るのは、随分昔に流行ったホラー映画である。のろいが伝染する、新しい都市伝説の形、などと称され絶賛された作品だ。ただ、提督などからすれば、もう古典である。ホラーというジャンルは意外と流動が早く、新進気鋭の天才が斬新なホ
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