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る山城の頭を健気に撫でている提督は、部屋の隅に在るダンボールを見つめながら肩をすくめた。
「あぁ……怖かった……」
「うん、そうだねー」
胸に手を当てて俯く山城の背をぽんぽんと叩き、提督は適当な相槌を打った。心も篭っていない棒読みのそれであるが、山城は特に反応を示さない。気が回らないほどに、本気で怖かったからだろう。ホラージャンル寄りの艦娘が、実はホラーが苦手だという事実に、提督は良く分からない眩暈を覚えていた。そんな中でも、彼は隅にあるダンボールを、足でどうにか近くに手繰り寄せていた。山城が腕から手を離さないからだ。
提督は山城の背を叩いていた手でダンボールを空け、中から一つのDVDを取り出した。
パッケージを見て、にんまり、と提督は笑い山城の肩を軽く叩いた。
「山城さん山城さん」
「な、なんですか……?」
「お口直ししようか」
「?」
テレビに映るのは、のんびりとした山村の風景だ。ナレーターの声以外は住民の声とテロップしかない、なんとも目に優しい映像である。
そんなのんびりとした物を瞳に映し込みながら、提督は隣の山城の様子を窺った。
特に興味を惹かれたような素振りもないが、退屈そうな様子にも見えない。人間は、後の映像のほうが記憶に残りやすい生き物だ。印象的なものを完全に拭い去るのは不可能だろうが、反するもので中和する事は可能なのだ。
眠れない時、ぼうっとしたい時に提督が見るその映像は、山城の心を常の物に戻す事にそれなりの成功を見せていた。
「提督、あのウサギって野うさぎでしょうか?」
「だろうねぇ、こんな番組でやらせってのもないだろうし」
「ですよね……ふふふ」
野を駆けるウサギの後姿に何を思ったのか、山城は空いている手で口元を抑えて小さく笑った。提督はそんな山城を見て、ほっと胸を撫で下ろした。が、その提督の相は少し固めだ。
「提督?」
「はいはい?」
「ここ、どこかしら……静かな場所ですね……」
「うん、元鉱山だとか言ってたから……あすこ辺りかな?」
知っている情報を口にする提督と、黙ってそれに頷く山城。二人は特に無理に騒ぐでもなく、話題を探すでもなく、極々自然に会話を交わしていた。
ただし、その中で自然でない異物があった。
「……」
如何したものか、と考える提督の隣で、山城が俯いた。提督は、
――あぁ、そういえばさっきから山城さん静かだなぁ。
と思ってその顔を覗き込むと、山城は目を閉じて舟をこいでいた。あぁ、本当に如何したものか、と空いている手を額に当てて、提督は目を閉じた。再び目を開け、彼は立ち上がろうとする。
しかし、それは叶わなかった。遮られたのだ。
山城の手に。
山城は起
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