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執務室の新人提督
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ラーを作ったかと思うと、すぐ原点回帰してのろのろ歩くゾンビに戻る傾向があるのだ。
 
 提督からすれば退屈な古典であっても、彼の腕にしがみつく山城からすれば純粋な恐怖だ。ただし、ホラーを見ている彼女のほうがよっぽどホラーな顔をしている事を指摘しない優しさが提督にもあった。怖すぎて言えないだけかもしれないが。
 
「あ、あわわわ……」

 目じりに涙を浮かべながらも、決して目を閉じない山城に、提督は話しかけた。腕に押し付けられる柔らかな何かから意識を逸らす為である。
 
「えーっと、これはどういう話で、山城さんは見ているんだろう?」
「か、加賀に、なんか私がこういうジャンルだからって言われて……ひっ……で、で……初霜に相談したら、子日が持ってるっていうから……貸し、ひぃいい……も、貰って……」

 ところどころつまりながら、というか怯えながらも山城は答えていく。実に律儀な、難儀な性格の持ち主であった。
 隣に座り、今や遠慮の欠片もなく腕にしがみつく山城の様子に、提督は空いている手で頭をかいた。山城は滑稽なほどに怯えているが、提督にはその辺りがさっぱりと分からないのだ。
 この作品は、言ってしまえば最後だけだ。それ以外は筋立て、伏線回収でしかない。何も、山城の様にそこまで怯える場面などないのである。
 
「あぁー……山城さんは、普段ホラーとかは?」
「み、見ません! 見ません! これが初め……ひっ!」

 そうであるらしい。ただ、この作品はホラー初心者向けである。実にライトなホラーだ。提督が知るヘビーホラーに比べれば、この作品は実に軽い。それでこの調子であるのだから、普段は何を見ているのだろうと提督は思い、素直に聞くことにした。
 
「ふ、普段ですか……普段は姉様と一緒に魔女の子が宅急便を始めるのとか、田舎に来た姉妹を助ける妖精の話を――て、提督! いま、今!!」

 画面を指差してぽろぽろと涙を零し始めた山城の頭を撫でながら、提督は強く目を閉じた。
 
 ――そら君、耐性びっくりするほどあらへんわー。

 何故か龍驤調で胸中呟いた提督は、ゆっくりと頭を横に振った。比較的平和な、メルヘンな物を姉妹揃って観ていたのである。が、それにしたって今提督達が鑑賞しているホラーは前述の通り初心者向けでもあるのだ。これより初心者向けのホラーとなると、アルバトロ○フィルム辺りが出しているアタックシリーズしかない。あれをホラーと言っていい物かどうかは分からないが。
 
「……扶桑さんと一緒に見たほうが、良くないですか?」
「だ、駄目! 姉様にこんなの見せられない!」

 そして選ばれたのが提督であるという事だ。提督にならこんな物を見せても平気なのだろう、山城的には。
 
 問答無用に腕を引っ張られ、それでも泣いてい
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