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明治維新後権力を手中に収めた薩長は土州を排除し陸軍と海軍を二分して掌握した。特に海軍はあの元勲西郷隆盛の弟、西郷従道を頭においたのだ。
そのためだろう、海軍男児というあり方はどうしても薩摩男児に近くなってしまった。南の男特有の懐の深さを持ちながらも、好戦的で生き恥を晒す事を恐れ、自らの艦と運命を共にしたがる。勿論昔の事で今はそんなことはないのだが、大本営を含む多くの人々の記憶にある海軍男児とは、快活とした薩摩男児なのである。
為に、人々の理想にそい、或いは海軍男児らしく生きようとすると、どうしても海軍の男は太く短い人生になりやすい。特に戦中となれば顕著だ。艦娘との間に子が出来ぬと知っていながら、それでも結んでしまうのは、情の深さと生の短さに原因がある。
「で……どの艦娘とケッコンカッコカリを?」
「……山城さんです」
「あぁ、あぁあああああー……」
提督の返した名前に、片桐中尉は顔を覆った。今度は片桐中尉が、しまった、といった相だ。
航空戦艦娘山城という艦娘は、個体差もあるが殆どが潔癖気味で情の深い艦娘だ。姉である扶桑に向けられていた想いを提督にも向けた場合、その愛は片桐中尉が知る限りでは相当に深くなる。その反面、というべきかどうか、実に嫉妬深くもあるのだ。
正直、ケッコンカッコカリ艦にもっとも向かない艦娘である。
戦力を求めるなら、複数とのケッコンカッコカリは必要な処置でもある。ただし、山城の愛情に応える為には、他の艦娘とのケッコンカッコカリは、そこに愛は無いと断言しなければならない。
感情を持つ、乙女相手に、だ。指輪を送っておきながら、だ。
ただ、これは山城だけに限った話ではない。大井でも金剛でも白雪でも同じだ。
それをどう裁くかも、提督の手腕の一つである。しかし、それでもやはり山城は不向きだ。と片桐中尉は思った。殊女性経験も浅そうな、というか無さそうな眼前の提督には、もっとも不向きな相手であったと彼は素直に思った。その思いがぽろりとこぼれた。
「これは……やってしまいましたなぁ」
「……片桐さん」
「はい?」
名を呼ばれた片桐は、おや、と首をひねりながら提督を見た。顔を上げた提督の目には、常にない何かが宿っていた。
「僕の山城さんを、やってしまいました、は止めてください」
「……失礼」
付き合いは短いが、片桐中尉はこの提督が好きだった。好きだからこそ、彼は頭を下げた。一個人、片桐としてだ。
「……いえ、僕もかっとしまして……申し訳ありません」
提督もまた、頭を下げた。待遇とはいえ少佐にある者が、中尉の片桐にだ。片桐は提督のこういう所が好ましく思えるのだ。階級を感じさせないように私服に着替え、気軽にと居酒屋に腰をおろし、まるで自身を先輩の
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