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執務室の新人提督
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「……あぁ」

 片桐中尉の言わんとすることを察したのだろう。提督は、しまった、と言った相で頭をかき始めた。その姿を見つめながら、片桐中尉は口を動かした。
 
「軍医と同じ扱い、と言えばご理解頂けますかね?」
「待遇階級、ですね?」
「はい」

 下級の士官や兵卒に危害を加えられないよう軍医などに用意された階級の事だ。貴重な専門職を優遇する為の措置である一方、この待遇を受けた者は軍閥において無用の長物と扱われる。
 旨みをもっていない、またはデメリットを抱えているからだ。
 軍医は戦後、または退役後大抵軍から離れて市井に戻り医者に戻る。元々一般の医者に対して軍が優遇処置を用意した招致だ。役目が終われば去る者が多く、彼らは軍の中で一定の権力を得る為の派閥を作れず、また必要ともしていなかった。
 同様、現在の提督、つまり艦娘に指示を出せる存在も一種の専門職だ。それも天賦の才に頼るしかない脆い物である。手繰り寄せた縁を無駄にしない為、軍は提督の為ある程度の餌を用意しなければならなかった。それが、少佐待遇からのスタートだ。
 
 ただし、それは見せ掛けだ。大将になろうと、元帥になろうと、艦娘を率いる提督と言う立場にある限り、提督は階級待遇を受けられても軍閥政治の中で権力を得られない。
 当然だ。彼ら提督の有する戦力が馬鹿げているからだ。それを受け入れる派閥がもし存在してしまえば、あとは泥仕合だ。互いが互いを牽制する為に提督の奪い合いになり、自身の価値を理解した提督が暴発しかねない自体に陥る。それを未然に防ぐ為、提督には待遇階級しか用意されないのだ。ちなみにこれは、長く軍にいると徐々に見えてくる不文律で、大抵の提督が若いうちに一度は足をすくわれる物事でもある。
 
「しかし、そうなると上に行こうとする野心家には受けがわるいのでは?」
「その場合、艦娘と縁を切って普通の士官になるしかありませんよ」
「……そういった人物が、過去に?」
「いいえ、自分が知る限りでは、皆最後まで提督でしたなぁ」

 例えば、片桐中尉のかつての上官の様に。片桐中尉などは、口に出したことは無いが常々思っている事があった。
 
「貴方は、どうされますか?」
「やめませんよ、提督は。上に行くのは艦娘達のためなのに、そのために提督を辞めちゃあ本末転倒じゃあありませんか」

 だろうともさ、と片桐中尉は頷いた。常々、彼は思っていたのだ。
 艦娘を指示する才能を天が与えたと人はいうが、艦娘達が提督を選んでいるだけではないのか、と。効率を求める提督の下に効率を求める艦娘が集まり、戦いを求める提督の下に戦いを求める艦娘が集まる。そうではなく、そういった人材を艦娘達が選別しているとするなら、今現在の様々な鎮守府や泊地の在り方に説明がつくのである。ただ、それ
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