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執務室の新人提督
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もう一人の大淀は、むむむ、と唸って自身の主、少年提督に目を向けた。
 
「提督……どういたしましょうか?」
「えーっと……良いって言うなら、僕は大丈夫だけど」
「……了解しました。では、手伝いをお願いします」
「はい」

 二人の大淀が執務室から出て行き、背後から大淀の姿を失った提督は先ほどから相一つ変えずソファーに座ったままだ。その姿に、少年提督は背後の吹雪に声をかけた。
 
「吹雪」
「はい」

 名を呼ばれた吹雪は、少年提督、そして提督に頭を下げて部屋から静かに去っていった。その背を見送ってから、提督は口を開いた。
 
「あれ、吹雪さんも薩摩芋の手伝いに?」
「……あ、あはははは。そんなかんじです」
「吹雪型に薩摩芋焼かせると、たいていその場でつまみ食いしますよ?」
「吹雪なら止めると思うんですが」
「いや、一口くらいいいよね、でそのまま一つ二つ行くのが吹雪だと思いますよ?」
「あ、あぁー……」

 何か思い当たる事があるのだろう。少年提督は額に手を当て、かもなぁー、等と唸りだした。
 その姿を眺めていた提督の耳に、どこか遠くから響いてくる声が届いた。それは彼の執務室でもよく聞く声で、耳に届いたこれがなんであるか、彼にはすぐ分かった。
 
「グラウンドで訓練中ですか」
「あ、はい。そうです……僕のところはまだまだ艦娘の層が薄いですから、訓練に出せる艦娘は僅かですが」

 出撃、遠征、演習、という出撃任務が無い艦娘でも、基本的には待機扱いだ。出撃メンバーなどに問題が出た場合、待機メンバーから艦娘が選ばれる。であるから、訓練にでるメンバーは完全にその日フリーでなくては為らないのだ。それゆえ、少年提督の鎮守府では訓練に回せる艦娘は僅かなのである。
 
「ですかぁ……あぁ、そうだ」
「はい?」
「神通さんは、居ますか?」
「いえ……まだうちには居ないんです」
「建造、ドロ――あぁいや、邂逅したら是非育てる――じゃなくて、積極的に運用する事をお勧めします」
「え、す、凄いですね、僕の特殊相性が分かるんですか?」
「……?」
「?」

 いまいち、何かかみ合っていない様子の会話に、提督はとりあえず一歩踏み込む事にした。

「とくしゅ、あいしょう……あれ、なんだったかなぁー、こう、がっこうでたあとはつかわないことばってすぐわすれるんですよねー」

 凄まじい棒読みであったが、少年提督の口にした単語が提督なら誰もが知っている、例えば学科で必ず出る言葉などであった場合、疑われると提督は考え芝居をうったのだ。三文どころの物ではない下手糞な芝居を。
 
「……え、えっと、そういう事もありますよ……ね?」

 駄目だった。提督の芝居は本当に駄目だった。それでも、少年提督は実に愛らしい笑
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