暁 〜小説投稿サイト〜
執務室の新人提督
31
[2/5]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
べれば少々温度が冷めていた。無論、提督から見えるのは少年提督の吹雪の顔だけだが、彼女の相だけで自分の背後に居る大淀がどんな顔をしているのか、おおよそ分かる。
 控え目かつ涼やか。提督の同行者として恥じないよう、等と考えて大淀はそうしているだろうと提督は思っていた。そしてそれは正解だった。
 
 ――しかし、こうして見ると……やっぱり分かるものなんだなぁ。

 そう提督がしみじみと何事かに感心していると、静かにドアがノックされた。少年提督が、どうぞ、と応じるとドアがゆっくりと開かれた。執務室に入ってきたのは、大淀であった。
 
「お茶をお持ちしました」
「あぁ、お気遣い無く……」
「粗茶ですが、どうぞ」

 少々硬い笑みで提督の前に、そして少年提督の前へ湯飲みを置く大淀は、今提督の背後に立つ大淀とまったく同じ同族同艦だ。提督の耳に届いた声も、僅かな仕草も彼の大淀と同じである。
 
 ――やっぱりなぁ。

 それでも、再び提督は何事かに感心して胸中で呟くだけだ。そんな提督を放って、少年提督達は動き続けていた。
 
「大淀、これ貰ったんだよ」
「あら、薩摩芋ですか。提督や吹雪達の好物ですね……ありがとうございます」
「いえ、粗品で申し訳ありません」

 嬉しそうな少年提督に微笑みながら、大淀が大淀に頭を下げた。本来頭を下げるべき相手が、何やら他の事に気を取られていると見たからだろう。実に細やかだ。例えば、提督達の前に在るお茶も大淀の細やかさが出ている。冷蔵庫が執務室にあるのだから、そこからお茶を出せばいいのに、態々給湯室から出したのである。気配りもそうだが、少年提督が軽く見られないようにしているのだ。
 これもまた、大淀が大本営から各提督へ与えられる理由の一つである。
 
「では、こちらを焼いて参ります。少々お待ちください」

 薩摩芋の入った箱を受け取り、大淀は一礼し退室しようとした。と、それに声をかけたものがいた。提督の背後に居た大淀だ。
 
「私も、手伝います」
「え?」

 少年提督、吹雪、もう一人の大淀が同時に声をあげた。彼女は提督の同行者であり、とても相は見えないが――実際彼女に格闘技の心得はほぼないが――護衛役でもある筈だ。少なくとも、少年提督達はそう見ていた。それが、提督の傍を離れるというのだから、彼らが驚き声を上げるのも無理からぬ事であった。
 そんな彼らを放って、今度は提督達が動いていく。大淀は提督の目を覗き込み、提督はそれに微笑んで頷く。そんな提督に大淀も頷き返し、彼女はもう一人の自身へ声をかけた。
 
「駄目だ、といわれるなら勿論やめておきますが」
「いえ……その、宜しいので?」
「はい、提督からのご許可は頂きました」

 むふん、と嬉しそうに鼻から息を吐く大淀に、
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ