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執務室の新人提督
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であるが、知らない人間は知らない物か、と片桐は提督に応えた。
 
「はい。正規空母赤城と、その提督の間に一人。その子供も、今じゃあ立派な提督になっていますよ。今回の特別海域でも、なんでも最深部まで進んで防空駆逐艦娘と邂逅したとか」
「そりゃあ、凄い」

 心底、と驚く後ろの提督に、片桐はもう笑顔が引っ込まなくなってきた。だから、そのまま彼は口を動かす。
 
「で、こっちの坊ちゃんの母親は、駆逐艦娘の白雪でしてね」
「…………その、それは大丈夫で?」
「これがまた、うちの元上官ががっしりした海の男ってやつでしてね」
「犯罪臭半端ないじゃないですか」
「そう、それなんですよ」

 片桐の言葉に、提督は愉快そうに笑い、片桐もそれにつられて笑い出す。
 今でこそ片桐は笑っていられるが、当時は大変であった。見た目から漂う犯罪臭もそうであったが、艦娘が人の子を孕んだのである。それも駆逐艦娘の幼い少女の姿をした存在が。
 大本営は混乱し、その片桐の元上官と同期の提督たちはもっと混乱した。赤城の時も相当混乱したらしいが、この時はそれ以上の物であったのだ。

 人権を無視して子を取り上げようと言う者、赤城の時には人権を認めたのだから、今度もそうするべきだと主張する者、駆逐艦娘と子供とかお前俺と代われよと嘆く元帥(当時)と、え、じゃあうちの三日月ちゃんももしかして孕んじゃうの? 等と自ら性癖と行いを暴露した者と、本当に混乱したのだ。
 結局、一通り調べた限りでは普通の子供であると各検証で証明されたので、赤城の時同様穏便に事は済んだのである。
 ただしこの後元帥と一人の提督が降格処分の上大本営から地方に左遷された。ただ提督の方は三日月が、自分達は真剣に愛し合っているのだ、と再三訴えた事から後に階級を戻した上で左遷先から復帰したのである。ただ元元帥、当時大将だけはそのまま据え置き処分であった。

 ちなみにこの当時大将、現在は大本営に返り咲き海軍元帥として活躍している有能な人物でもある。
 
「まぁ、色々言いましたけども……」

 片桐は目の前の鎮守府、その門前にある小さな二つの人影を確かめてから、車のスピードを緩めて背後の提督へ振り返った。
 
「良ければ、うちの今の上官とも、仲良くしてやって下さい」

 紛れも無い、心からの片桐の言葉であった。
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