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執務室の新人提督
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、わりと強めに揺さぶっている。
 その姿がまた、この二人の繋がりを片桐にも垣間見せていた。決して部下と上司だけの付き合いで作られる関係ではない。男女の仲でもなく、もっと深い、長い時間で信頼を積み上げた関係だ。
 片桐には、そう見えた。
 
「あの、すいません」
「あ、はい……なんでしょうか?」

 突然後ろの提督から声をかけられた片桐は、慌ててバックミラーから眼を離し応じた。提督は申し訳ない、と心底から感じさせる声音で片桐に続けた。
 
「片桐中尉は、今から向かう鎮守府の提督さんの、部下の方で?」
「えぇ、そうです」

 部下の方、という独特な言い回しに片桐は内心笑った。馬鹿にした笑いではない。その言い回しに、人の良さを背後の提督から感じたからだ。ゆえに、片桐は意識せずに笑顔で返した。
 
「先代からのご縁で、坊ちゃん――あぁいや、失礼しました。提督の手伝いをしております」
「坊ちゃん、ですか?」
「あ、あははは……まぁ、実はですね」

 やはりそこは見逃してくれないか、と諦めて片桐は提督に説明した。
 
 片桐がその鎮守府の提督に仕えているのは、先代からの縁だ。彼の前の上官は、実に優れた提督であり、指揮官であり、男であった。と同時に、とてつもない事をやってのけた男でもあった。
 それが為に、片桐の前の上官は退役し、自身の子供が提督になった時、片桐に声をかけたのである。すこしばかり特殊な事例であるから、と。
 そこまで聞いて、提督は黙り込んだ。ここまで聞いて、その特殊な事例とやらを突いて良いかどうか迷ったのだろう。だから、片桐は今度は声に出して笑った。
 
「あぁ、いえ、失礼しました」

 まだ笑った相のまま、片桐はバックミラー越しに提督と、その隣に座る大淀へ頭を下げた。二人はそんな片桐に軽く頭を下げ返すだけで、そこに怒りのかけらも見受けられない。
 
「そちらの大淀なら知っているとは思いますが……どうしましょう。自分が説明した方が?」
「はい、どうかお願いいたします」

 片桐の言葉に、再び大淀が一礼する。それを見届けてから、片桐は唇を舌で一度湿らせてから続けた。
 
「その自分の元上官殿は、艦娘との間に坊ちゃんを作ってしまいましてね」
「うえ?」

 その辺りの話を知らなかった提督は奇妙な声をあげ、片桐と大淀へ交互に、何度も目を走らせる。大淀は提督に意味ありげに微笑み、片桐は、おっかないおっかない、と心中で呟いた。
 
「まぁ、前例が一つしかない事だったんで、こりゃあなかなか大変だろうと提と……あぁ、元上官は思いましてね、で、自分の様な古い人間を、坊ちゃんにつけた訳です」
「……前例、ですか? それはつまり、その、他にも艦娘と提督の間に子供が……?」

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