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執務室の新人提督
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「いませんよ?」
「え?」

 提督は呆然とした片桐中尉の相を眺めてから、小さく肩をすくめて車の後部座席に乗り込んだ。それに続いて大淀も後部座席、提督の隣に座る。片桐中尉は少しばかり慌ててトランクを閉じ、運転席へと戻っていった。
 
 エンジンが鳴り、排気口から排気ガスが噴出され、車はゆっくりと車道へ出て……そして艦娘達の視界から消えていった。はらはらとずっと眺める者、何かを決意した相でグラウンド、或いは訓練室へ歩み去る者、筆舌に尽くし難い相で親指の爪を噛む山城等と多種多様な反応を見せて、提督の艦娘達は常ならぬ一日を迎えようとしていた。
 
 
 
 
 
 
 車の中で、片桐中尉は少しばかり困惑していた。通常、新人提督という存在はその特異性から天狗になりがちだ。特に若いからだろう。時に目に余るほど彼らは増長する。
 ただ艦娘に命令できるという才能一つで、少佐待遇という恵まれた出発をし、国防の要は自身だと自負するのであるから、鼻はどこまでも高く長く伸びるのは実に自然な事であった。特に事情などなければ、だ。だというのに、今片桐の運転する車の後部座席に座る提督は、実に普通であった。
 
「大淀さん、お土産用意したけど、本当にあんなのでよかったのかねぇ?」
「大丈夫ですよ、提督。こう言った物は気持ちも込みですから」
「あぁどうしよう、こんな物食えるか、シェフを呼べ、とか言われたらどうする?」
「いえ、提督は何を言っているんでしょうか?」

 バックミラーで伺う艦娘大淀とその主である提督の会話は、実に普通だ。いや、決して提督の言動は普通ではないが、片桐が見た限り前の主と同じ程度に自然だ。

 片桐の今の主と同じ、一ヶ月ほどの提督が、だ。
 この時期の提督はまだ天狗の鼻が折れる前だ。大抵の提督は艦娘に対して高圧的で誰が上であるか分からせようとしている。そんな者ばかりではないとしても、やはり命令するという立場を守ろうとする提督ばかりの筈だ。少なくとも、片桐の20年ほどの軍人生活の中で、今後部座席に居るような新人提督は見た事が無かった。
 おまけに、護衛の艦娘もなしだ。同じ軍属、同じ提督といっても、戦力が揃えられた他所の鎮守府に行こうとする提督が自身の護衛も用意しないというのは、片桐が知る限り聞いたことも無い話である。
 
「あぁでもどうしよう。実は色んな提督達が集まっていて、僕が入ったら、おういいナオンちゃん連れてるじゃねぇか、俺は提督ランクCだぜ。ひよっこのお前に提督のなんたるかを教えてやるからそのナオンちゃん一晩俺に貸せよ、とか言い出した後、提督ギルドの受付提督嬢が提督ギルドのギルドマスターを呼んできて助けてくれるんだよね?」
「提督、確りして下さい。いえ、本当に確りして下さい」

 大淀は提督の肩を掴み
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