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翌朝、鎮守府の門前に100人以上の艦娘と提督が立っていた。提督は大きな鞄一つを手に立っているだけだが、艦娘達は様々だ。
「大丈夫、司令官本当に大丈夫? ハンカチは? ティッシュは?」
「提督……何かあったらすぐ電話するんですよ? あと生水は口にしたら駄目ですよ? ね?」
「提督、ここ少し曲がっていますよ……直しておきますね」
「提督、武運長久を……どうか、ご無事で。貴方に何かあれば、私たちは……」
「いいか、相手が舐めた真似してきたら俺に言えよ! 絶対だぞ!」
「ふふふ……ふふふふふふ」
上から、提督の右腕を掴んで心配そうに提督を見上げる雷、こちらも心配そうな顔で提督の左手を握って離さない夕雲、提督の襟を正している古鷹、提督を真っ直ぐに見つめて呟く鳳翔、自身の拳を握りこんで気合を入れている天龍、わら人形片手に笑う早霜、である。彼女達以外の艦娘も、それぞれ提督に声をかけている訳だが、特に特徴的だったのは彼女達だ。あとは、ただ静かに佇む大井や、提督の隣に居る大淀を筆舌に尽くしがたい相で睨む山城がいるくらいである。
兎に角、それら艦娘達に提督は一人一人応じ、頭を下げ、笑い、微笑む。そんな彼らの傍、提督の鎮守府の前に一台の車が止まった。なんの特徴も無い白の普通車だ。そこから、一人の男が出てきた。男は提督の前まで進むと、綺麗な敬礼を行った。
「お初にお目にかかります。自分はこの度案内を命じられた片桐中尉であります」
「あぁ、これはどうも」
軍人然とした相手の敬礼に、提督は下手糞な敬礼で応じた。
さて、その片桐中尉であるが、そう若い男ではない。体つきはたくましく、白い海軍士官服よりも野戦服の方が似合いそうな男である。
片桐中尉は車の後部座席のドアを開け、そこで微動だにしなくなった。提督がそこに座るのを待っているのだろう。その様子に、提督は軽く頷いて自身の艦娘達の顔を見回した。
「じゃあ、行ってきます。すぐ帰ってくるけど、あとは皆任せたよ」
「はい!」
全員が――いや、大淀以外が敬礼で応じ、それを見てから提督は皆に背を向けて車へと足を進めた。それに続くのは、大淀である。この世界の大本営の大淀を取り込んだ彼女は、この世界をよく理解していない提督にとっては必要なナビ役だ。
「その、失礼を承知でお伺いしたいのですが」
「はい?」
提督の手から荷物を預かりトランクに仕舞おうとしていた片桐中尉がなんとも言えない相で言葉を続ける。
「護衛の艦娘は?」
片桐の目は大淀に向けられている。大淀、という艦娘が護衛向きの艦娘ではない事を知っている目だ。それゆえ、もう一人同行者が居るのではないか、と彼は提督に伺ったのである。だが、提督の答えは彼の予想を大きく裏切った。
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