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ぜ炒めている間、初雪は小さな鍋に湯を張りつつ何度も横目で提督を見ていた。鼻歌でも歌いだしそうな提督の、意外にもなれた感じの手つきが初雪の視線を誘導してしまうのだ。塩やコショウを振りながら、フライパンのなかを混ぜる提督はそれなりに様に為っていた。少なくとも、調理が得意ではない初雪よりは、だ。
「まぁ、一人暮らしもそれなりに長かったからねー……簡単な男の手料理くらいは、それなりにつくれるよ」
初雪の視線に気付いていたらしい提督は、フライパンを眺めたまま軽口を叩く。初雪は僅かに肩を落として、インスタントラーメンの袋を破って乾燥麺を取り出した。それを湯へと落とし、溜息を吐き
「……女として、肩身が狭い、です」
そう呟いた。男がフライパンを回し、女がインスタントラーメンを作っているのが、今の二人の状態だ。今の世で男が、女が、という在り方を問うのは愚問である。艦娘という乙女達が戦い、海の男である軍人達が比較的安全な陸にいる様なここでは特に、だ。それでも、人には理想的なそれぞれの姿がある。
それを初雪も持っていたのだ。個性的な存在が多い艦娘の中でも特に尖った少女であるが、極めて一般的な理想像を。
「肩身が狭いは、僕のセリフだなぁ……」
提督は小皿に出来上がった物を移し、フライパンをガスコンロの上に置く。熱が引かないうちから流し――水場に置けば、フライパンの劣化が早まるからだ。
「皆が海で働いてる最中、僕はここで書類か休憩かだよ。少なくとも、君達みたいに命は賭けてない」
レンジで温めるご飯を手に取り、提督はそれを備え付けの電子レンジに入れて操作を始める。と、提督は俯いて鍋のなかの麺をほぐす初雪へ顔を向けた。
「初雪さん、ご飯あつめ?」
「……ぬるめ、です」
「はいはい」
そうやって、提督は秒数を設定してもう一つを温め始めた。初雪はどことなく楽しそうな提督を横目で何度か確かめながら、どんぶりを手元に寄せた。そして、気付いた。
「提督、お湯は少な目? ……それとも、大目? ふつう?」
「ふつうで」
「うん……あぁ、いや……あの、提督のふつうが、わからない」
困った様子で自身を見上げる初雪に、提督は苦笑を浮かべて初雪の傍へより手元を覗き込んだ。
「じゃあ、ストップって言うまでどんぶりに移動で」
「あぁ、なるほど……」
鍋を傾け、初雪はどんぶりへラーメンを移していく。
「あ、ストップ」
「ん」
提督が口にした瞬間、初雪はぴたりと動きを止めて鍋を戻した。あとは箸で鍋に残った麺を掴み、どんぶりへと移してく。自身の傍に居る提督をまた見上げて、初雪は小さく問うた。
「提督、玉子とかは?」
「今日はいいかなー……と。初雪さんは?」
「私も、今日はいい…
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