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ドアを開けて、大井は顔を顰めた。
大井が今扉を開けて入った部屋は、提督の座す執務室である。外へ出るようになっても、結局提督は執務室に篭りがちで余りここから出ない。出ないどころか――
「あぁもう提督……また布団を跳ね除けて」
未だこの部屋で寝起きしている。鎮守府のトップが、である。一部艦娘達はやはり提督らしく私室を用意するべきだと提案したが、提督は提督で苦笑一つで首を横に振った。
たったそれだけで皆がそれ以上何も言わなくなったのは、なるほど、提督こそがトップであると尚更大井に思わせた事でもあった。
布団を跳ね除けた提督に歩み寄りつつ、大井は目を細める。
――あぁ、これは初霜、こっちは……山城。あとは金剛、この卵焼きのにおいは瑞鳳ね。
鼻を微かに鳴らしながら大井は溜息を吐いた。室内に在る、提督以外の匂いだ。大井はこの執務室が好きだ。ここには提督の匂いが、温もりが一番色濃く在る。だが、同時にこうやって異物も混じるのが大井には酷く不安でもあった。
この部屋は誰も拒みはしない。誰が来ようとも鍵も無い執務室は常に誰でも受け入れる。
それがまるで執務室の主の様で、大井はそれが不安だった。彼女は夜中、そう、今執務室の窓から仄かに光る月の、星の灯りの下でしか提督と会わない。いや、会ってすらいない。
眠っている提督の顔をデジカメにおさめ、少しばかり触れ、冷蔵庫の中身を補充するだけの片思いだ。
負担になりたくない、素直になれない。だから大井は提督が起きている時間と、たまに在る出撃前の挨拶以外で執務室に入らない。
――どうせ私は、皆と違って提督と話が弾む事もないし……
そう胸中で呟いてから、大井は背後へ振り返った。そこにあるのは執務室の扉である。ただ、大井が実際に見ているのは、その扉の向こうだ。
――あの人も、提督と話が弾むタイプじゃないと思うけれど。
雑な気配の消し方をしている、提督からとある指輪を渡された航空戦艦を思い浮かべ大井はまた小さく溜息を吐いた。手に在る手提げ鞄からデジカメを取り出し、大井は提督の枕元に両膝をついた。室内にいるもう一つの気配に気付かず、安らかな相で眠る提督の顔を一枚、二枚、三枚、百枚とおさめ、大井は跳ね除けられた掛け布団をゆっくりと提督にかけた。
――あぁ、よかった。提督、今日もお元気そうね。
かつて、提督が苦しんでいた夜があった。ただ静かに眺め、写真におさめるだけだった仄暗い夜の独りよがりな逢瀬が、あの夜から変わった。
大井が触れた事で、提督の相から苦しみが抜けたのだ。大井にとって、それは救いであり免罪符であった。自身が居る事で提督が救われるなら、それは大井にとっても救いだ。自身がそこに在る事で提督が安らかになれるのなら、この
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