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提督の耳に、人の心音が心地よく木霊する。人の心音は人を癒す。そこにある他者の温もりが、生きてある互いを繋げるからだ。求めれば分かる。抱きしめれば知る。どうしてこの人と一つになれのだろうと、心音を一つにしようと人は強く他者を抱きしめる。
このときの提督も、それであった。寝ぼけているからだろう。彼は何の迷いも無く龍驤を抱きしめた。
「……ちょっと痛いで?」
「……ん」
提督は龍驤の腕の中でゆっくりと頷き、やがて動かなくなった。龍驤は眠りにおちた提督の背を優しく何度か叩き、扉に目を向け口を開いた。
「悪いけど、暫くこうしとく。君もしっかり休みや」
提督と龍驤しかいない室内だ。しかし龍驤のそれは独り言にしては大きすぎ、誰かに向けられた言葉であるのは明白である。が、やはりその室内には、扉の向こうの廊下にも気配は無い。
いや、無かった筈だ。だというのに、執務室の扉は開かれた。
「じゃあ、あとはお任せしますね?」
「悪いね……わがまま言うてもて」
「いいえ、龍驤さんですから」
心底から申し訳ないと語る相の龍驤に、阿武隈はそう返してまた扉を閉じた。と、途端に気配は消えた。龍驤であるからこそ、辛うじて察知できるような気配だ。
「いやー……多分これわかるんいうたら、あとは鳳翔さんくらいやなー」
ぽつりと呟いて、龍驤はまた提督の背を叩いた。
「まぁ、この調子やったら起きてもなんも覚えてへんやろうし……お互い幸せやからええやんなー?」
自己主張する提督の寝癖を軽く指で弾いて、龍驤は華の様に笑った。
「あれー……」
布団を跳ね除け、提督は腕を組んで首を傾げた。
昨夜、へんな時間に起きたような気がするのだが、その様子がどこにも無いからだ。先ほどまで布団にくるまっていたし、室内を見渡してもそういった気配は感じられない。常の、いつもの寝起きの彼の世界だ。
「……なんか、二人くらいの女に抱きついたようなないような……」
流石に女性だけの職場で駄目になってきたか、と頭を悩ませる提督の耳にどたどたと足音が届き始めた。提督は室内の時計に目を向け、いつもより少しばかり早い時間だと確かめた。
となると、この廊下を走る足音は当然朝一番に顔を見せる秘書艦初霜ではなく、偶に初霜と変わる大淀や加賀でもないと、未だすっきりしない提督の頭でも理解できた。
さて、足音は通り過ぎるのか、それとも扉の前で止まってノックするのか、と扉を見つめる提督の目に、勢い良く人影が飛び込んできた。
「おー……ノックなしかー」
「提督! てーへんだ! てーへんだ!!」
「おうどうしたハチ」
「球磨だクマー!」
お金をぽんぽん悪人に投げ飛ばす
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