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あった。手には懐中電灯がある。その懐中電灯を見るとはなしに見ていた提督は、ぼうっとしたまま首を傾げた。
提督の視線と仕草で気付いたのか、龍驤は手に在る懐中電灯を振りながら笑った。
「まぁ、一応見回りってやつやねぇ。うちの鎮守府には必要ないかもしれへんけど、せやからって怠ける訳にもいかへんやろ?」
「せやな」
特に考えも無く提督は返した。完全に条件反射である。
ここは鎮守府、艦娘とそれを指揮する提督が座す陸へと続く海と空を守る一つの小さな世界である。幾ら平穏であるからといって、これからもその平穏が続くと勝手に思い込んで自滅するわけにはいかないのだ。ゆえに、龍驤などの索敵に優れた者が夜の警邏を行うのである。とはいえ
「でもおとうさんしんぱいだなー」
「おう、誰がお父さんやねん」
提督の軽口に、龍驤は手の甲で何も無い場所を打った。いわゆるツッコミのポーズである。
夜の警邏は大いに結構だが、その警邏に龍驤の様な……少女然とした艦娘までもが参加している事に提督は心配したのである。口調こそ軽かったが、根にあるのは心からの心配だ。
それを感じられない龍驤ではない。彼女は提督に満面の笑みを向けて胸元からぶら下がっている物を取り出し、提督へ見せた。ホイッスルである。
「まぁ、安心してって。何事かあったらこれで皆を起こすって寸法や」
「ほほぅ……で、皆って?」
「せやなぁ……一水戦の皆はすぐ来るし、二水戦もまぁ、すぐくるなぁ……あと川内、那珂、山城、大井、妙高も即参上って感じやろか? ちょっと遅れて長良、球磨、矢矧、北上、木曾、高雄やね」
「夜戦火力ぱないっすね」
名の挙がった艦娘達が艤装つけて砲雷戦を開始したら鎮守府が一つなくなるのではないだろうか、と寝ぼけた頭で考える提督に、龍驤は笑みを浮かべたまま頷いた。
「まぁうちは、珍しい時間に灯りついとるなーって来ただけやから、提督はよ寝ーよ?」
「んー……なんか、ねれそうなねれなさそうなー……」
提督は寝癖のついた頭をふらふらと振りながら応じる。そこには常以上に無防備な提督がいる。龍驤は提督に近づき、寝癖のついた頭をそっと撫でた。
「君は、うちらのまとめ役っていう大事な仕事があるんやから、しっかりやすまなあかんねんで?」
「でもおとうさんしんぱいだなー」
「誰がお父さんやねん」
寝ぼけた提督の言葉に今度は龍驤も突っ込みのポーズもとらず、彼女は自身の胸に提督の頭を抱き寄せた。先ほどの大井同様、慈愛に満ちた相で龍驤は寝癖を撫でる。
「まぁ……お父さんでもえぇけどね。うちらは、君がおるから頑張れるん。せやから、君はいつもの君でいたらえぇねん。しっかり寝て、しっかり食べて、しっかり働いて、しっかり生きてや」
「……ん」
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